サブリースに規制。新法案成立で不動産業界はどう変わる?

コロナ禍で国会が紛糾する中、その陰で不動産業界にとって重要な法案が可決されていることをご存じでしょうか。
今国会で可決成立した「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」は、今後の賃貸経営のあり方を変えるかもしれない重要な要素が含まれています。
そこで本記事では、新法案が可決されるに至った経緯と内容、不動産業界に与える影響について解説したいと思います。
1.新法案の概要
この度可決成立した「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」に盛り込まれている内容を整理すると、重要なポイントは次の2点です。
※参考:国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」を閣議決定https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000200.html
ポイント1:サブリース契約のトラブル防止
新法案のメインといえるのが、サブリースに対する規制です。
かぼちゃの馬車問題を発端に、サブリース契約が抱える問題点が業界的にも浮き彫りになり、最終的に個人投資家が被害を受けるケースが続出したことから、トラブル防止などの観点から規制が設けられることになりました。
そもそもサブリースとは、業者が賃貸物件を一括で借り上げて毎月一定の家賃を貸主に保証するというもので、不動産業界では以前からよく用いられる一種の管理形態でした。
貸主はサブリースを利用することで、毎月一定の家賃が確実に確保でき、空室リスクに悩まされることもなくなるので、ローンを確実に返済していける目途が立てられるというのがメリットです。
ところが、かぼちゃの馬車問題のように借り上げている業者の経営が悪化すると、予定していた家賃が入金にならなくなったり、家賃額を半ば強制的に値下げさせられたりするケースがあり、ローンが返済できなくなった所有者が自己破産するような事態が起こり始めました。
新法案ではこうしたトラブルを未然に防ぐため、次の2点について規制がかかります。
不当な勧誘行為の禁止
サブリースの勧誘は不動産売買と同時に行われることも多く、半ば強引に勧誘する業者が多いことから、今後はマスターリース契約を勧誘する際には、家賃減額のリスクなど所有者にとって影響がある内容について説明することが義務化されます。
もちろん、事実を故意に告げなかったり、間違った情報を伝えたりする行為も禁止です。
特定賃貸借契約(マスターリース契約)締結前の重要事項説明
これまでマスターリースの契約を締結する際には、売買や賃貸の重要事項説明のように対面による説明義務はありませんでした。
ちなみに、一般的にはサブリース契約といわれていますが、正確には所有者と業者が交わす契約はマスターリース、業者が入居者と交わす契約をサブリースといいます。
新法案では、マスターリース契約を締結する前に、家賃や契約期間などを記載した書面を交付して説明することが義務化されます。これにより、書面をよく読まないまま署名捺印をしてトラブルになる事態は防げるようになるでしょう。
ポイント2:賃貸住宅管理業の登録制度の創設
意外と知られていませんが、いわゆる賃貸管理業というのは媒介をする宅建業とは違うので登録制度の対象外で、特段の届出をすることなく自由に事業を営むことができました。
新法案では不良業者を排除するために、宅建業のような国土交通大臣の登録制度が創設されます。
注意点
管理戸数が一定規模以下の場合は対象外です。
登録制度では具体的に以下のことが義務化されます。
業務管理者の配置
宅建業者の宅建士のような、知識と経験を有する者を配置することを義務化
管理受託契約締結前の重要事項の説明
管理を受託する際に書面を交付しての説明を義務化
財産の分別管理
管理する家賃等について、自己の固有の財産等と分けて管理することを義務化
定期報告
業務の実施状況等について、管理受託契約の相手方に対して定期的に報告することを義務化
国土交通省が行ったアンケート調査によると、管理業者との間でトラブルが発生したことがあると回答したオーナーが、全体の約46%もいたそうです。今回の登録制度創設によって、こうしたトラブルが全体の15%程度に減るよう国交省が目標を立てています。
2.売るためのサブリース(マスターリース)は減少する可能性あり
これまでサブリースは投資物件をスムーズに販売する手段として使われる傾向がありましたが、詳細な説明を義務化されたことで、今後は強引な勧誘ができなくなるので自然と減ってくると考えられます。
また、投資家からすれば事前にリスクを書面で説明してもらえるようになるので、落ち着いて判断をすれば契約を結んだ後に業者とトラブルになる事態は回避できるようになるでしょう。
3.まとめ:サブリースで投資家が知っておくべきこと
サブリース契約の問題点、それは業者の経営状況に大きく左右されるリスクを負うということです。
通常の賃貸経営であれば、家賃相場が下がらなければ家賃も下がりません。
ところが、サブリース契約の場合は事実上、サブリースの相手方である業者の経営状況次第で、保証額の値下げを迫られることがあるのが実態です。
サブリース契約の保証額は、業者の経営状態に左右されるリスクを負うので、契約を締結する際には業者の実績や経営状態なども細かくチェックする意識を持つことが大切でしょう。