1.認知症等になったら、本人は不動産売買契約ができません
結論からいうと、不動産の所有者本人が認知症等になってしまい正常な判断能力が失われてしまった場合は、たとえ本人の健康状態が良好だったとしても売買契約はできなくなります。
法的に契約をするためには、自分の行為から生じる結果を判断できる意思能力が必要になりますが、認知症になった場合は意思能力を欠くことになる可能性があるので、自由に契約を結ぶことができません。
仮に、本人にペンや実印を持たせて署名捺印したとしても無効となります。
ただ、「認知症=意思能力を欠く」というわけではないので、意思能力があるかどうかは個別に医師や登記を担当する司法書士等立ち合いのもと確認することになります。
子供が代理人になれないのか
認知症のケースでは、お子さんから「親の不動産を自分が代理人になって売りたい」と相談されることがあるのですが、残念ながら本人に意思能力がなければ、代理人を立てることもできません。
例えば、本人がご高齢で足元が悪く不動産会社まで来社することが難しい場合に、委任状を書いて子供を代理人にすることはできます。
ポイントは、本人に意思能力があるかどうかです。
ではどうすれば親の不動産を売却できるのでしょうか。
2.成年後見制度を利用する
本人が認知症等にかかって意思能力を欠く状態になった場合は、不動産売買にかかわらず高齢者施設への入所契約などさまざまな契約ごとができません。
このように認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力がないケースでは、成年後見制度を利用することになります。
成年後見制度とは、本人に代わって契約ごとをしたり本人の財産管理をしたりする人である成年後見人を家庭裁判所に選任してもらう制度です。
※参考:法務省「成年後見制度~成年後見登記制度~」http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html
成年後見人になれる人
成年後見人は家庭裁判所が選任しますが、申し立ての時に候補者を提出できます。
特に資格は必要ないので、通常は子供などの近親者を候補として提出しますが、弁護士などに依頼することも可能です。
成年後見人が選任されれば、本人が認知症で判断能力がなかったとしても、本人の利益になる契約ごとに関しては成年後見人が行えるようになります。
成年後見人なら不動産売買契約を締結できるのか
自分を成年後見人に選任してもらえば、親の不動産を自由に売却できるかというとそうではありません。不動産は本人にとって貴重な財産ですから、それを売却することは本人の不利益につながる可能性があるからです。
このようなケースでは、次の点に注意が必要です。
- 居住用不動産の場合:家庭裁判所の許可が必要(入院中の場合の自宅も含む)
- 非居住用不動産の場合:家庭裁判所の許可は不要だが、売却する理由や価格に注意が必要
よって、成年後見人に選任されたからといって安易に売買契約書に署名捺印してしまうと、契約自体が無効になる恐れがあるので十分注意が必要です。
3.意思能力があるか微妙な場合
このように本人が認知症にかかって判断能力がなくなってしまった瞬間から、不動産売却のハードルが一気に高くなりますので、売却を検討している場合は、できるだけご自身が元気なうちに売却しておくことが大切です。
とはいえ、急に病状が悪化して意思疎通が難しくなることも少なくありません。
本人にまだ意思能力があるかどうかの判断は難しいので、医師や登記を担当する司法書士に相談することをおすすめします。
私が実際に経験した案件では、医師と登記を担当する司法書士が立ち合いのもと、その時の本人の判断能力を確認したうえで売買契約書等に署名捺印をもらったことがあります。ちなみにこのようなケースでは、登記申請をする決済日当日にも司法書士が本人の生存確認をしていました。
家族にも相談することが重要
自分が成年後見人になって親の不動産を売却する場合は、親の死後相続人になる予定者にも事前に相談しておくことをおすすめします。
不動産の売却に彼らが納得していないと、売却手続きが終わってから文句をいってくる可能性があるからです。合意を取り付ける法的必要性はありませんが、将来の相続でトラブルの火種となる可能性がありますので注意しましょう。
4.まとめ
本人が認知症になっても成年後見制度を利用すれば、問題なく不動産を売却できますが、成年後見の申し立て手続き自体が非常にややこしいので、できるだけ避けたいところです。
認知症に診断されたとしても、一概に意思能力がないとは限りません。
判断能力の有無について、一度主治医に相談することをおすすめします。