【令和4年度税制改正】住宅ローン控除の改正ポイントを解説
令和4年度の税制改正大綱が発表され、改正点の目玉として「住宅ローン控除」の見直しが行われました。
複数年にわたって所得税や住民税から税額控除が適用可能な「住宅ローン控除」の節税効果は非常に大きいものですが、制度を正しく理解したうえでマイホームを購入しないと税負担が増えてしまうケースも十分考えられます。
そこで今回は「住宅ローン控除」の改正内容について解説します。
本記事は、『【2022年改正】住宅ローンの控除率が下がる!?マイホームは購入しない方がいい?』の結論となる記事です。
1.住宅ローン控除とは?
住宅ローン控除は「住宅借入金等特別控除」という制度の通称を指します。
具体的には、マイホーム購入やリフォームによってローンを負った個人の経済的負担を緩和するために、「年末時点でのローン残高×控除率」によって計算した金額を一定の控除期間内における所得税や住民税から控除できる制度です。
税制改正前では、原則として10年間にわたって住宅ローン控除が適用され、納税者にとっては非常に節税効果の大きい制度として広く利用されてきました。
なお改正前の住宅ローン控除は令和3年12月31日までの期限付きの制度でしたが、今回の税制改正によって令和7年12月31日まで4年間延長されることが決定しています。
2.令和4年度からの改正内容
令和4年度の税制改正における目玉として、住宅ローン控除の改正が発表されました。
具体的な改正内容は下表のとおりです。
居住年 | |||||||
~令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 令和7年 | |||
控除率 | 1% | 0.7% | |||||
所得要件 | 3,000万円以下 | 2,000万円以下 | |||||
控除期間 | 新築住宅・買取再販(※1) | 10年 | 13年 | ||||
既存住宅 | 10年 | ||||||
借入限度額 | 新築住宅・買取再販 | 認定住宅 | 5,000万円 | 5,000万円 | 4,500万円 | ||
ZEH(※2) | 4,000万円 | 4,500万円 | 3,500万円 | ||||
省エネ基準 | 4,000万円 | 3,000万円 | |||||
その他 | 3,000万円 | 適用なし(※3) | |||||
既存住宅 | 認定住宅 | 3,000万円 | 3,000万円 | ||||
ZEH | 2,000万円 | ||||||
省エネ基準 | |||||||
その他 | 2,000万円 |
(※1)買取再販とは不動産会社などが買い取った住宅をリフォームし、その後販売する中古住宅をいいます。
(※2)ZEHはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略であり、太陽光発電などによってエネルギーを創出し、年間で消費するエネルギー量が正味ゼロ以下の省エネ住宅をいいます。
(※3)新築で令和5年までに建築確認がされている場合には2,000万円となります。
今回の税制改正では、従来の「認定住宅(認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅)」に加え、新たに「ZEH水準省エネ住宅」や「省エネ基準適合住宅」(以下では、まとめて「認定住宅等」とします)が追加されました。
これらのバリエーションを増やすことで一般の住宅とは区分し、省エネや環境性能等の度合いに応じて住宅ローン控除額の計算結果にも違いが生ずるように調整が加えられることになります。
それでは、上の表に記載した改正点について、内容ごとに細かく確認していきましょう。
1)控除率・所得要件の引下げ
今回の住宅ローン控除に関する改正の中で、最もインパクトが大きいのは控除率の引下げでしょう。
会計検査院の調査によると住宅ローンの金利が1%に満たないケースも多く、本来ローンを組む必要のない富裕層まで「住宅ローン控除による減税を受けるために不必要なローンを組む」という租税回避行為が問題視されていました。
そのような「逆ザヤ」状態を解消するために、税制改正によって控除率が1%から0.7%へ引き下げられ、それによって令和4年度以降の入居に関しては1年あたりの住宅ローン控除額が減少することとなります。
同様の観点から、住宅ローン控除適用のための所得要件が従来の合計所得金額3,000万円から2,000万円へ引き下げられることとなり、富裕層の制度適用がより一層困難になることが予測されます。
なお、これらの所得要件に関しては、税制改正が行われる令和4年度以降に居住開始した場合だけでなく、改正前からすでに住宅ローン控除の適用を受けている個人についても、同様に引下げの対象となりますのでご注意ください。
2)控除期間の拡大
控除率の引下げが行われる一方で、住宅ローン控除を適用できる期間については「新築住宅・買取再販」の場合、従来の10年から原則13年へ延長されることとなります。
ただし今回の税制改正前においても、消費税率が10%に引き上げられた際の緩和策や新型コロナウイルス感染症によって入居が遅延した場合などの要件に該当する場合には、すでに例外として13年の控除期間が適用されています。
また認定住宅等に該当しない「その他の住宅」に当てはまる場合には、令和6年以降に入居するケースでは控除期間は10年となるためご注意ください。
なお中古住宅に関しては、改正前の控除期間10年のまま変更はありません。
3)借入限度額の引下げ
令和4年度の税制改正では「企業の賃上げ促進」などのテーマに基づいてさまざまな制度変更が行われていますが、住宅ローン控除に関しては「脱炭素社会への対応」が色濃く反映されています。
これは「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質0にする」という目標に向け、政府は住宅市場においても「脱炭素」の取組みを強化する考えに基づくものです。
具体的には「ZEH水準省エネ住宅」や「省エネ基準適合住宅」の区分を増設し、省エネや環境配慮のレベルが高い住宅ほど税制上の恩恵が受けられるように改正が行われました。
「認定住宅等」のように環境性能の高い住宅を取得する場合には、借入限度額は現行制度と横ばいあるいは一部引上げとなります。
その一方で「認定住宅等」以外の「その他の住宅」については縮小傾向にあり、特に「新築住宅・買取再販」の場合には現行の4,000万円に対し、令和6年以降に入居した場合には、令和5年までに建築確認を受けたケースを除き、住宅ローン控除の対象外となってしまいます。
これらの借入限度額に関する改正によって、納税額から差し引くことができる住宅ローン控除額の総額は以下の算式のように減少します。
認定住宅の場合
・改正前:5,000万円×1%×10年=500万円
・改正後;5,000万円×0.7%×13年=455万円(令和5年12月末までの入居の場合)
したがって控除期間全体では税制改正によって住宅ローン控除のトータルでの控除額は減少することとなり、特に「認定住宅等」以外の「その他の住宅」では増税の傾向が顕著となります。
このことからも、政府としては省エネや環境配慮型のマイホーム購入を後押ししており、対照的にそれ以外の住宅に関する税制上の優遇措置については、今後縮小傾向に向かうことが伺えるでしょう。
4)その他
先述した内容以外にも、住宅ローン控除に関してはいくつかの改正項目が存在します。
たとえば住宅ローン控除額については、所得税から控除しきれない金額を翌年の住民税からも差し引くことができますが、その上限が前年の課税所得金額等の7%(最高136,500円)から5%(最高97,500円)へ引下げられます。
また中古住宅については、令和3年度までは築20年以内の木造住宅および築25年以内の非耐火構造住宅が要件とされており、これを上回る築年数の場合には「耐震基準適合証明書」などの証明書を別途提出しなければなりませんでした。
しかし、今回の税制改正によってこれらの築年数に関する要件は撤廃され、昭和57年以降に建築された住宅であれば上記の証明書の提出が不要となります。
なお、昭和57年以前に建築された住宅については証明書の有無にかかわらず、住宅ローン控除の適用対象外となりますのでご注意ください。
住宅ローン控除の適用を受けるための手続きに関しては簡素化が図られます。
令和5年1月1日以降に住宅ローン控除を適用する場合、これまで年末調整や確定申告の際に必要とされていた「住宅借入金等の年末残高証明書」の添付が不要となる見込みです。
改正内容を正しく理解し、計画的に住宅を取得しましょう
今回の税制改正によって住宅ローン控除の内容はさらに複雑なものとなり、有利不利の判定は容易ではありません。
居住開始年や住宅の種類、性能によって住宅ローン控除額の差も広がり、それが複数年にわたって適用されるため、間違った判断をしてしまえば所得税や住民税に与える影響も大きくなってしまいます。
税金面も考慮してマイホームを購入する場合には、今回の改正内容を正しく理解し、スケジュールに余裕を持って実行するように心掛けましょう。
住宅ローン控除制度への理解に不安がある場合には、税理士や不動産会社などの専門家に確認することをお勧めします。