経年劣化によって固定資産税は下がる?建物評価額の算定方法を解説!!
土地や建物などの不動産を所有する場合、毎年発生するコストの代表格として「固定資産税」が挙げられます。
固定資産税は「固定資産税評価額」によって計算され、建物の場合には「建物評価額」が具体的な課税標準となります。
一方で、これらの評価額や税金の額に関しては、不動産が所在する自治体によって計算されるため、実際の計算方法について十分に把握している不動産オーナーは多くありません。
毎年発生する固定資産税については、シミュレーションを誤ることで投資計画全体に与える影響も大きいため、正しい知識を身につけましょう。
1.固定資産税とは
毎年1月1日時点での土地や建物の所有者に対しては固定資産税が課され、所有者は自治体からの通知にしたがって納税手続きを行わなければなりません。
固定資産税は「固定資産税評価額」に基づいて算出されており、一般的には以下の算式によって計算されます。
固定資産税=課税標準(固定資産税評価額)×1.4%
ただし、新築の戸建てや住宅用地などに該当する場合には、課税標準の特例措置の適用を受けられるケースもあります。
必ずしも「課税標準=固定資産税評価額」とはならない点に注意しましょう。
2.固定資産税評価額と建物評価額の関係は?
固定資産税の基礎となる「固定資産税評価額」とは、土地や建物に対して課税を行う上での評価額を指します。
対象となる土地や建物の「時価」とは異なるためご注意ください。
なお、家屋の場合の「建物評価額」は「固定資産税評価額」とイコールであるため、自治体によって算出された建物評価額に基づいて固定資産税が課されることとなります。
建物評価額は、対象となる家屋を再度立て直した場合の建築費用を表す「再建築価格」を基準にし、「再建築価格」から経年劣化による損耗など、いくつかの影響を加減算することで計算されます。
したがって、建物評価額については、その評価対象となる建物の構造や面積、所在地、築年数などの複数の要素によって変動します。
一般的には「再建築価格」の50~70%程度が目安となるでしょう。
3.建物評価額の算出方法
家屋の固定資産税計算の基準となる建物評価額については、「再建築価格」以外にもいくつかの要素を加味することで算出されます。
建物については年数の経過とともに固定資産税が減少すると認識されているケースも多いですが、必ずしも家屋の老朽化に合わせて税負担も減少するとは限りません。
誤った解釈によって資金計画に影響を及ぼす可能性もあるため、建物評価額の構成要素や算定方法を理解し、正しい税金計算の知識を身につけましょう。
1)3年に一度「評価替え」が行われる
固定資産税の基礎となる「建物評価額」については、原則として3年ごとに評価替えが行われます。
毎年最新の価格が公表される「公示価格」や「路線価」とは異なり、建物評価額の場合には家屋が所在する各市町村によって個別に調査が実施されるため、課税事務の簡素化の観点から3年ごとに評価額を見直す制度が設けられているのです。
なお、建物評価額の見直しについては、それぞれの自治体から委託された不動産鑑定士によって実施されます。
建物評価額の評価替えについては、「再建築価格」に対し、経年劣化を反映する「経年減点補正率」や物価水準の変動を加味する「評点一点当たりの価額」などの要素を乗ずることによって行われます。
2)経年減点補正率とは
建物については時間の経過とともに損耗し、資産価値が低下するため、それらの実態を課税上にも反映する必要があります。
そこで、「再建築価格」に対し、以下の算式のように評価対象となる家屋の築年数に応じた「経年減点補正率」を乗じることで、建物評価額を減額する措置が講じられています。
建物評価額=再建築価格×経年減点補正率
「経年減点補正率」については、家屋の構造や種類などによって補正率が区分されており、最大で80%相当が損耗したものとして評価額を圧縮することが可能です。
なお「経年減点補正率」は必ず1.0未満で設定されることとなるため、建物評価額を引き下げる効果があります。
3)評点一点当たりの価額とは
建物評価額の基準となる「再建築価格」については、建材費用の高騰や下落などによる物価水準の上下によって変動することとなります。
そのような経済的な要素を適切に反映するため、以下の算式のとおり「再建築価格」に対して「評点一点当たりの価額」を乗じます。
建物評価額=再建築価格×経年減点補正率×評点一点当たりの価額
「評点一点当たりの価額」は、1円に「物価水準による補正率」と「設計管理費等による補正率」を乗じることによって算出され、木造家屋と非木造家屋に分けて設定されます。
「経年減点補正率」とは異なり、物価水準を反映する「評点一点当たりの価額」については1.0を上回るケースもあるため、物価水準の上昇時には建物評価額を引き上げ、反対に物価水準の下落時には建物評価額を引き下げる効果があります。
4)建物評価額が下がらないのはなぜ?
建物の場合には、一般的に年数の経過とともに「経年減点補正率」が引き下げられるため、次第に建物評価額も低下し、固定資産税の負担が減少するケースが多いです。
しかし、「評価替え」自体は3年に一度実施されることとなるため、必ずしも毎年のように固定資産税が減少するということではありません。
「経年減点補正率」については20%未満となることはないため、経過年数に伴って補正率が最小の20%に達した場合、それ以降は何年経っても「経年減点補正率」によって評価額が下がることはありません。
建物評価額を引き下げる「経年減点補正率」に対し、物価水準の上昇を反映した「評点一点当たりの価額」によって建物評価額を引き上げる要素が作用した場合には、評価額全体がさほど変動しないケースも十分考えられるでしょう。
このように年数が経過しても思うように建物評価額や固定資産税が減少しないケースも想定されるため、資金繰りにはくれぐれもご注意ください。
5)物価が高騰すると評価額も上がる?
先述したとおり、物価水準が上昇し、建築費用などが高騰することで「評点一点当たりの価額」が加味されるため、結果的に建物評価額を引き上げる効果が働くケースもあります。
「評点一点当たりの価額」の上昇率が「経年減点補正率」の減少幅を上回る場合には、先述した計算式によって算定する建物評価額がかえって増加してしまう場合も考えられるでしょう。
しかし、固定資産税の計算においては、評価替えを行った場合の「最新の評価額」が「既存の評価額」を上回る場合には、納税者の税負担を考慮し、「既存の評価額」に据え置くこととされています。
したがって、建築費用などが高騰した場合においても、それによって前回評価時よりも建物評価額が高まることや、固定資産税が増加に転じることはありません。
建物評価額の計算方法を正しく理解し、固定資産税の負担に備えよう
固定資産税の計算の基礎となる「建物評価額」については、不動産が所在する自治体によって評価が行われ、税額の通知によって納税手続きを行うため、具体的な計算方法を把握している納税者は決して多くはありません。
「建物の固定資産税は年々減少する」などの誤った知識を持ってしまうケースもあり、それによって予想以上の税負担が発生する可能性も十分に考えられます。
「建物評価額」の計算方法や、評価額を加減算する各要素を正しく理解することでより正確な納税予測やシミュレーションが可能となるため、適正な資金繰りや投資計画に役立てましょう。