【税理士執筆】区分マンションにおける減価償却の計算方法とは?【不動産投資家必見!】

不動産投資として区分マンションを購入する場合、その物件から発生する家賃収入については不動産所得として所得税計算の対象となります。
不動産所得では家賃収入から控除できる必要経費を集計することによって、税負担を減らすことが可能です。
不動産投資家にとって必要経費の代表例となるのが「減価償却」であり、効果的な不動産投資計画を立案するためには減価償却への正しい理解が欠かせません。
そこで今回は不動産投資における減価償却について、その計算方法や売却時の注意点を中心に解説します。
1.不動産投資家が「減価償却」を理解すべき理由
利回りへの期待や節税対策など、さまざまな理由によって不動産投資が行われています。
しかしいずれの投資効果についても、税金計算の仕組みが理解できていなければ、正しいシミュレーション結果を導き出すことができません。
不動産投資によって得られる家賃収入は「不動産所得」として所得税の課税対象となり、不動産投資家は毎年の「不動産所得」を以下の算式によって計算し、確定申告を行います。
不動産所得=家賃収入-必要経費
(青色申告者の場合には、別途青色申告特別控除の適用あり)
不動産投資の場合、上記の算式における必要経費の代表格が「減価償却費」であり、その金額の大小によって所得税に与える影響も大きいため、正しい理解が必要不可欠なのです。
2.減価償却とは
建物や機械装置、車両のように時の経過とともに価値が減少し、複数年にわたって使用することで収入の獲得につながるような資産を「減価償却資産」といいます。
一方で土地や骨とう品など、経年劣化を起こさない資産については減価償却資産には該当しません。
減価償却資産はその性質上、購入した年に一括で必要経費として計上するのではなく、資産ごとに定められた「法定耐用年数」に応じ、各年に分割して “経費化”しなければなりません。
たとえば1,000万円の資産を購入した場合には、購入年にまとめて1,000万円を経費には計上せずに、複数年にわたって数十万円~数百万円ずつ経費で落とすイメージとなります。
なお取得価額が10万円未満の場合については金額が少額のため、購入時にその全額を必要経費として計上することが可能です。
1)減価償却費の計算方法
減価償却費は主に「定額法(旧定額法)」と「定率法(旧定率法)」のいずれかの方法によって計算され、対象となる資産の取得時期によって計算方法に若干の差異があります。
平成19年3月31日以前に取得した場合
この場合には以下の「旧定額法」または「旧定率法」によって計算します。
なお平成10年4月1日以後に取得した建物については、「旧定率法」および「定率法」を選択することはできません。
旧定額法
減価償却費=取得価額×0.9×償却率
旧定率法
減価償却費=未償却残高(取得価額-前年までの償却費の合計)×償却率
「旧定額法」の場合には毎年同額の減価償却費となる一方、「旧定率法」では未償却残高に対して償却率を乗じるため、減価償却費は初年度ほど高く、その後年数を重ねるごとに減少することとなります。
また償却率は資産ごとに定められた「法定耐用年数」によって決定され、たとえば購入価額が1,000万円の資産を耐用年数47年(旧定額法)で計算する場合には、『1,000万円×0.9×0.022=198,000円』が1年あたりの減価償却費となります。
※参考:国税庁『減価償却資産の償却率等表』)
平成19年4月1日以後に取得した場合
この場合には以下の「定額法」または「定率法」によって計算します。
なお平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備および構築物については、「定率法」を選択することはできません。
したがって平成28年4月1日以降に区分マンションなどを取得する場合、建物や建物附属設備、構築物についてはいずれも「定額法」によって減価償却費を計算することとなります。
定額法
減価償却費=取得価額×償却率
定率法
減価償却費=未償却残高(取得価額-前年までの償却費の合計)×償却率
3.区分マンションの減価償却の計算方法は?
不動産投資において物件ごとの減価償却費を計算する場合には、償却の対象となる建物の取得価額や法定耐用年数を確認しなければなりません。
また中古マンションの場合には、築年数によって毎年の減価償却費の金額にも大きな影響を及ぼすため、正しい計算方法をマスターしましょう。
1)まずは建物の「取得価額」を算定
減価償却費の計算においては、対象となる資産の「取得価額」を確定する必要があります。
特に不動産投資によって土地建物を取得する場合、土地に関しては価値が減価しない資産として減価償却の対象とはならないため、建物単体の購入価額を算出しなければなりません。
売買契約書にて土地と建物を区分して購入価額が表記されている場合には問題ありませんが、中には土地建物の合計金額のみが記載されているケースもあるため、注意が必要です。
その場合にはそれぞれの固定資産税評価額に基づいて購入価額を按分するなど、合理的な方法によって建物の取得価額を算出します。
また取得価額には建物の購入代金だけでなく、不動産会社へ支払う仲介手数料なども含まれるためご注意ください。
2)「法定耐用年数」を確認し、減価償却費を計算
区分マンションの建物部分の取得価額が算定できれば、あとは償却率を乗ずることで減価償却費が計算できます。
償却率については資産ごとの「法定耐用年数」によって定められており、法定耐用年数が短い資産ほど短期間での経費化が可能です。
ただし一般的に建物については利用可能期間が長く、機械装置や車両などの他の資産よりも法定耐用年数が長期に設定されています。
具体的には建物の構造や用途によって法定耐用年数が設定されていますが、区分マンションに関してはほとんどが鉄筋鉄骨コンクリート(SRC)造または鉄筋コンクリート(RC)造に該当するでしょう。
鉄筋鉄骨コンクリート造または鉄筋コンクリート造の建物に関する法定耐用年数は、下表のとおりです。
■建物(鉄筋鉄骨コンクリート造または鉄筋コンクリート造)
用途 | 法定耐用年数 |
事務所 | 50年 |
住宅 | 47年 |
飲食店 | 41年
(木造内装部分の面積が30%超の場合は34年) |
旅館・ホテル | 39年
(木造内装部分の面積が30%超の場合は31年) |
店舗・病院 | 39年 |
車庫 | 38年 |
公衆浴場 | 31年 |
工場・倉庫 | 38年 |
したがって「住宅用」として区分マンションを購入する場合には、その建物部分の法定耐用年数は「47年」となり、その場合の償却率は「0.022」となります。
なお上表のとおり、法定耐用年数表においては「事務所用」や「住宅用」などの大まかな用途による分類しか設けられていないため、ワンルームマンションやファミリーマンションなどの具体的な用途による差異はありません。
3)中古マンションは早期に経費化が可能
一般的な資産については新品よりも中古の方が利用可能期間は短く、経年劣化のスピードも早いと考えられます。
そのような実態を適切に反映するため、減価償却費の計算においても中古資産の場合には新品の資産に比べてより早期に経費化できるよう、以下のように法定耐用年数を短縮することが可能です。
■法定耐用年数の全部を経過した資産の場合
法定耐用年数×20%
■法定耐用年数の一部を経過した資産の場合
(法定耐用年数-既経過年数)+既経過年数×20%
なおいずれの中古資産の耐用年数においても、算出した年数が2年に満たない場合には2年とし、1年未満の端数が生じた場合にはその端数を切り捨ててください。
たとえば鉄筋鉄骨コンクリート造または鉄筋コンクリート造の区分マンション(住宅用)の場合、築年数が法定耐用年数の47年を超過しているケースでは、「47年×20%=9.4年≒9年(償却率0.112)」となり、新築の場合と比較して耐用年数が38年(47年-9年)も短縮されることとなります。
また築年数が10年の場合には「(47年-10年)+10年×20%=39年(償却率0.026)」となり、こちらも同様に新築よりも短い期間で経費化することが可能です。
このように不動産投資の場合には物件の構造や用途だけでなく、築年数によっても減価償却費の計算に違いが生じるため、シミュレーションの際にはくれぐれもご注意ください。
4.区分マンション売却時の減価償却と譲渡所得の計算
投資用に取得した区分マンションを売却すると「譲渡所得税」が発生します(所得税や住民税が課税されます)。
譲渡所得税を求める上で減価償却費は大きく関係してくるので、本章では減価償却費と譲渡所得税の計算の関係性について整理します。
マンション売却の具体例を出しながら解説するのですが、その前に本章の結論だけ先に述べます。
すでに経費計上した減価償却費が高いほど、譲渡所得税が高くなる傾向にあります。
なので、不動産購入時には売却時期も考えながら取得するのがお勧めです。
それでは、計算例を見ながら減価償却と譲渡所得の関係性を確認していきましょう。
1)譲渡所得の計算方法
不動産を売却した場合の譲渡所得について、以下の算式によって計算します。
譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)
建物の取得費については注意が必要です。
購入時の価額をそのまま計算式に当て込みたいところではあるのですが、過去の不動産所得の計算において減価償却費としてすでに経費計上した金額を除いた「未償却残高」を計算式に用いりますので注意ください。
一方で、土地については経年劣化しないため、原則として購入時の価額が取得費となります。
譲渡費用は、売却時の仲介手数料や印紙代などを指します。
上記の算式によって計算した譲渡所得がプラスの場合には所得税や住民税が課税されますが、マイナスの場合にはそれらの税金は発生しません。
【具体例】区分マンションを売却した場合
- 売却価額:400万円
- 購入時の価額
・建物部分:購入価額250万円(うち100万円は減価償却費として計上済み)
・土地部分:購入価額200万円
- 譲渡費用:20万円(仲介手数料など)
【本件計算例】
譲渡所得30万円=売却価格400万円-{(建物取得費250万円-減価償却既計上費100万円)+土地取得費200万円+譲渡費用20万円}
したがってこのケースでは、譲渡所得30万円に対して所得税および住民税が課税されます。
このように不動産所得での減価償却が進む(計上する年が増える)ほど未償却残高は減少し、売却時の譲渡所得が発生しやすくなります。
不動産投資を行う際には物件の所有期間中の投資利回りや税金だけでなく、その後の売却時の税金も考慮して投資計画を立案しましょう。
2)譲渡所得にかかる税率は?
不動産を売却した場合の譲渡所得については、給与所得は不動産所得などの他の所得とは分離され、譲渡所得単体で税金計算を行います。
譲渡所得にかかる税率は、売却した物件の「所有期間」によって異なります。詳しくは「長期譲渡所得と短期譲渡所得とは?不動産投資で活用できる特例制度も」
で解説していますので、こちらをご覧ください。
5.減価償却を正しく理解し、正確なシミュレーションを行いましょう
不動産投資を行う場合、投資によって獲得できる収入だけでなく、それによって増加する税金にも目を向けなければなりません。
特に不動産所得の計算において「減価償却費」が占めるウエイトは非常に大きく、その計算方法が誤っていれば正確なシミュレーションは極めて困難となるでしょう。
また減価償却費の計上が進むほど不動産の売却時の譲渡所得は大きくなりやすくなるため、売却のタイミングには慎重な判断が必要となります。
所得税計算においてカギとなる「減価償却」の正しい計算方法を理解し、税金も含めた精度