不動産投資の確定申告のやり方。節税方法や注意点を解説
今や身近な投資となってきた不動産投資ですが、実質利回りを考える上で外すことができない問題が税金の問題かと思います。
賃貸不動産の保有時から売却時までの税金についての理解が投資判断に重要な要素となり得ます。
今回は年間300人以上の不動産オーナーの確定申告を手掛けている筆者が、賃貸用不動産を取得した際の個人の確定申告について押さえて頂きたいポイントをお伝えしたいと思います。
1.確定申告すべき人とは
給与収入がある方は、勤務先で行われる年末調整により所得税額が確定するため、確定申告を行う必要はありません。
その中でも次の方は、必ず確定申告が必要です。
確定申告が必要な人
・給与額面が年間2000万円を超える方
・年末調整される給与以外の所得が20万円を超える方
ここでいう「所得」とは、収入から費用を引いた利益の部分を指します。
不動産賃貸業であれば、賃料収入から管理費・減価償却費などの経費を引いた残りの利益部分を不動産「所得」といいます。
給与は給与所得、不動産による利益を不動産所得といいます。
このような所得の種類は全部で10種類あります。
スキマ時間にできるフードデリバリーなどの副業や暗号資産など様々な収入がありますが、それらの所得はご自身で把握する必要があります。
暗号資産による所得やストックオプションによる所得の申告もれを税務署より指摘される方も増えていますので、収入を得た際は必ず確定申告をしてください。
なお、給与以外の所得が20万円以下となる場合は確定申告は不要となりますが、あくまでも所得税の確定申告に限ったものになります。
その場合、住民税の確定申告は必要となるので忘れないようにしてください。
対して確定申告を「した方がトクになる方」は次の方です。
確定申告をした方が「トク」な人
・ふるさと納税・医療費控除などの年末調整では適用されない控除を受ける方
・住宅ローン控除を初めて受ける方(2年目以降は年末調整により控除を受けることができます)
・事業所得や不動産所得で赤字が生じた方
確定申告の義務はないですが、確定申告をすることによって、ご自身の給料から天引きされた所得税の一部の還付を受けることができます。
2.確定申告の流れ
次に確定申告の流れについて解説します。
1)税務署への届出書等の提出
青色申告を行う方は「青色申告承認申請書」の提出、e-taxにより電子申告を行う方は電子申告開始届の提出など、必要に応じて税務署に書類を提出します。
青色申告承認申請書のように期限がある届出もありますので事前に確認が必要です。
2)取引の帳簿の作成
事業所得、不動産所得がある方は年間を通して、その取引帳簿の作成を行う必要があります。
帳簿に関しては会計ソフトやエクセルを利用して作成していきます。
青色申告でも白色申告でも帳簿の作成は必要となりますが、青色申告の場合で55万円又は65万円の控除(青色申告特別控除)を受ける場合は、複式簿記の方法での帳簿付けが必要となりますので注意してください。
3)申告書添付書類の収集
②の帳簿の作成が不要な方でも、確定申告には書類の添付が必要なものがあります。
ふるさと納税の寄付金の受領書や住宅ローン控除の借入金の年末残高証明などです。
e-taxにより申告する場合は添付の省略が可能となるものもありますが、書類の原本は申告期限後5年間の保存が必要となります。
4)青色決算書、収支内訳書の作成
事業所得・不動産所得がある場合に必要な書類です。
②の帳簿を基に、主に損益計算書及び貸借対照表などを作成します。
青色申告の場合は青色決算書、白色申告の場合は収支内訳書を作成します。
会計ソフトを使用して帳簿をつけている場合は連動して作成できることが多いです。
5)確定申告書の作成
申告書の種類として申告書Aと申告書Bがあります。
給与所得のみの方は申告書A、それ以外の方は申告書Bに記載してください。
ただ、給与所得のみの方が申告書Bに記載しても問題ありません。
(令和5年1月より申告書Aは廃止され、申告書Bに統一されます)
第一表・二表の記載内容
多くの場合は第一表と第二表を作成します。
一表には給与所得などの所得金額、医療費控除などの所得控除額、住宅ローン控除などの税額控除額、給与から天引きされた源泉税額を記載し、最終的に納付額又は還付額を記載します。
二表には扶養している家族の情報などを記載します。
その他の申告書用途
その他の申告書用途は下記のとおりです。
三表…不動産の譲渡や株式の譲渡など「分離課税※」の所得を申告する場合に使用します。
※給与や不動産などの所得は「総合課税」といいます。総合課税は所得金額に応じて税率が上がっていくのに対して、分離課税は一定の税率となっています。
四表…損失申告(赤字の申告)となる場合に使用します。青色申告のメリットのひとつである純損失の繰越を行う場合にも必要となります。ただ、給与収入がメインの場合、給与収入より他の所得の赤字が大きくなることはまれであるため使用される方は少ないかと思います。
五表…既にした申告を修正する修正申告を行う場合に使用します。
6)確定申告の期限および提出
申告期限までに申告書を提出します。
例年、確定申告書の提出期限は2月16日から3月15日となっています。
期限後の申告となった場合、無申告加算税や延滞税のペナルティが発生する場合があります。
なお、確定申告義務がない場合で還付を受けるために申告する場合の期限は、その年の翌年1月1日から5年間となっています。
提出方法は税務署窓口への直接提出、郵送又はe-taxによる電子申告です。
e-taxの場合は青色申告特別控除額が65万円となること、寄付金の受領書などの添付書類を省略できることがメリットです。
7)所得税の納付又は還付
納付期限は申告期限と同様です。
申告と同様に、納付が期限後となってしまった場合も延滞税のペナルティが発生する場合があります。
納付もれを防止するために振替納税の利用がお勧めです。
振替納税であれば、申告期限までに申告書の提出を行うと、振替納税日に指定した銀行口座より所得税額が引き落とされます。
また、振替納税日は申告期限より1か月後に設定されるため、納付に余裕がもてるため資金繰りにも有用です。
還付の場合は申告書を提出してから2週間程度で指定口座に振り込まれますが、確定申告期限近くでの申告の場合は1か月程度かかることもあります。
3.『青色申告』は確定申告の代表的な節税方法
皆さんに確定申告といえばと聞いたら、多くの方が最初に思い浮かべる用語かもしれません。
これから確定申告を行う方で、白色申告であればこれは是非やりましょう。やらない手はないです。
- メリット…10万円の青色申告特別控除、その他優遇規定
- デメリット…特になし
青色申告にすると帳簿づけなどが面倒だとか難しそうといったイメージをもたれがちなのですが、平成26年から白色申告でも記帳が義務付けられました。
そのため、いずれにしても記帳が必要なのであれば、特別控除ができる青色申告をやらない理由はないといえます。
その他の優遇規定としては30万円未満の備品を購入した場合に一時的に経費とできる制度(通常10万円以上の備品は数年間で費用とする=減価償却をする必要があります)や事業で生じた赤字を向こう3年間にわたって繰り越すことができる制度などがあります。
ちなみに青色申告特別控除には55万円(e-Taxによる申告の場合等は65万円)の控除額もあります。
ただし、不動産事業を行っている個人の方の場合は、ワンルーム投資であれば、10室程度以上の賃貸物件数の規模(事業的規模といいます)であるときに限りこの控除額の適用があります。
さらに記帳についても複式簿記とする必要があるなど、10万円控除を受ける場合とは要件が異なりますので注意してください。
なお、青色申告は不動産事業を行っている方(不動産所得)やフリーランスの方(事業所得)の場合に行うことができます。サラリーマンとしての給与収入のみの方は青色申告を行うことができないので、こちらも注意してください。
参考記事:青色申告とは?メリット・デメリットを解説!不動産投資で青色申告は必要?
4.青色申告の申請方法
青色申告を行うためには税務署にその旨を申請する必要があります。
申請書自体は国税庁のHPよりダウンロードできますのでそちらをご参照頂ければと思いますが、作成についてもそこまで難しいものではないかと思います。
注意したいのは提出期限です。
【その年から青色申告をする場合の申請期限】
- その年から事業を始めた方…事業を開始した日から2か月以内
- 前年以前より事業をやられている方…青色申告を始めたい年の3月15日
期限が経過している場合でも今年分の確定申告と同時に提出(来年3月15日期限)すれば、来年からは青色申告とすることができます。
青色申告以外にも、確定申告時に利用できる節税は多くあります。
一覧にしてまとめたので、ぜひこちらの「【総まとめ】個人こそ使いたい節税一覧【対策編】」をご確認ください。
5.減価償却費の計算
青色申告の準備の後は、賃貸事業による利益、つまり、不動産所得の計算を行っていく必要があります。
その計算の中でもわかりにくいものが減価償却費の計算だと思います。
初めて賃貸不動産を所有される方からのご質問もこの減価償却費の計算についてのものを最も多く頂きます。
減価償却費の計算方法は次のとおりです。
減価償却費の計算式
減価償却費=取得価額×耐用年数に応じた償却率×取得日~年末までの月数(1か月未満切上)
このそれぞれの項目をみていきたいと思います。
6.賃貸用不動産の減価償却費の考え方
具体的な計算方法に入る前に「そもそも減価償却費とは?」という部分について確認していきます。
減価償却費とは、不動産等の『価値』の低下に着目し、税法に定めたルールに沿って計算した費用のことをいいます。
税法は不動産等を購入したとしても、その支払に応じて全額を費用としては認めてくれません。
その購入額のうち、減価償却費として計算した部分を費用に計上していくことになります。
例えば、賃貸用不動産として、土地と建物を購入したとします。
このうち、土地は時間の経過に応じて価値は低下(減価)しないため減価償却費の計上はできません。
それに対して建物は時間とともにその価値が低下していきます。
とはいえ、価値の低下を客観的に把握することが困難なため、税法でその計算方法を定めているのです。
なお、賃貸不動産としてマンションのような区分所有権を購入した場合でも、減価償却費の計算上、土地と建物に区分する必要があります。
まれにこの区分をせずにその全額を減価償却されている確定申告書類も見かけますが、それは誤りですので注意してください。
7.計算に必要な資料
それでは実際の計算です。
まずは所有されている不動産に関する下記資料をご準備ください。
減価償却費の計算に必要な資料
1.売買契約書
2.固定資産税評価証明書
3.仲介手数料・固定資産税の精算金がわかる資料
4.登記簿謄本
8.土地・建物の取得価額
5章で紹介した減価償却費の計算式をもとに、それぞれの計算を紐解いていきましょう。
減価償却費=取得価額×耐用年数に応じた償却率×取得日~年末までの月数(1か月未満切上)
最初に取得価額の計算をみていきます。
1)売買契約書
売買金額をベースにするのですが、売買契約書によって記載方法が異なるかと思います。
次の3パターンのいずれかになることが多いです。
売買金額をベースにするのですが、売買契約書によって記載方法が異なるかと思います。
次の3パターンのいずれかになることが多いです。
【1】売買金額(土地建物の別に記載あり)
売買契約書どおりの金額が土地、建物の取得価額となります。
【2】売買金額(消費税の記載あり)
税務上、土地には消費税がかからず、建物にのみ消費税がかかることになっています。それを利用して、消費税の金額を税率で割り返します。
そこで計算された金額が建物の税抜金額となりますので、さらに消費税額を加算した金額、それが建物の取得価額になります。
最後に売買金額から建物の金額を差し引いた残額が土地の取得価額になります。
例:売買金額3100万円(うち消費税100万円)
100万÷10%=1000万(建物税抜金額)
1000万+100万=1100万(建物取得価額)
3100万-1100万=2000万(土地取得価額)
【3】売買金額(消費税の記載なし)
売主が個人の方の場合はこのような記載になることが多いです。
この場合でも土地と建物に区分する必要があります。
ここで使用する書類が「固定資産税評価証明書」になります。
この書類には取得物件の建物と土地の固定資産税評価額というものが記載されているので、その合計額における比率を売買金額に乗じて取得価額を算出します。
例:売買金額3000万
建物固定資産税評価額:1000万
土地固定資産税評価額:1400万
3000万×1000万/(1000万+1400万)=1250万(建物取得価額)
3000万-1250万=1750万(土地取得価額)
なお、マンション等の区分所有権の場合、固定資産税評価証明書に記載される評価額はその敷地全体のものであることが多いです。
その場合は、登記簿謄本に記載されている敷地権の割合を敷地全体の固定資産税評価額に乗じて、その物件に係る土地の固定資産税評価額を算出してください。
2)仲介手数料・固定資産税の精算金がわかる資料
土地・建物の取得価額ですが、実際は1の計算では完了しないことが多いのです。
というのも、物件を購入する際に支払う固定資産税の精算金・仲介手数料についても、それぞれの取得価額に含める必要があるためです。
ざっくりいうと、次のとおりです。
『購入にかかった費用で税金以外は取得価額に含める』
仲介手数料は、まさに購入のためにかかった費用となります。
そのため、1により計算した土地建物の金額の比率により土地部分と建物部分に按分してそれぞれの取得価額に合算します。
固定資産税はその年1月1日の所有者に課税されます。
そのため、年の途中で所有者が変わったとしても新所有者(=買主)は税金を支払う必要がありません。
ですが、売主からすると、所有していない期間分の固定資産税を支払うのは不公平に感じます。
そこで、売却後の固定資産税を買主が負担(清算)するのが、不動産取引の慣習になっています。
この二つの支払について、支払時の費用としてしまう誤りが多いように思われます。
なお、このほかの税金等の諸経費は支払時に費用として計上することができます。
9.耐用年数の計算
減価償却費=取得価額×耐用年数に応じた償却率×取得日~年末までの月数(1か月未満切上)
次に耐用年数に応じた償却率を把握します。
ここで確認する書類は不動産の登記簿謄本(建物)です。
1)耐用年数
登記簿謄本の次の項目を確認してください。
・構造…鉄筋コンクリート、木造など
・種類…居宅・事務所など
こちらの記載内容を国税庁のホームページなどにある耐用年数の表にてらして耐用年数を決定します。
例えば構造が鉄骨鉄筋、種類が居宅であれば、耐用年数は47年になります。
※国税庁ホームページより抜粋https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensutatemono.html
2)中古資産の耐用年数
不動産投資は中古での購入も多いと思います。
耐用年数は新品の状態での年数であるため、中古で取得をした場合にはその年数を中古年数に修正することができます。
まず、登記簿謄本から新築年月日を確認し、購入日までの年数を把握します。
【1】耐用年数の全部を過ぎている場合
耐用年数×20%
【2】【1】以外の場合
(耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
例:(耐用年数47年-経過年数10年)+経過年数10年×20%=39年※
※1年未満の端数は切捨て。2年未満となる場合は2年とします。
3)耐用年数に応じた償却率
上記2で算定した耐用年数に応じた償却率を国税庁のホームページ等で確認します。
個人の場合、建物の償却方法は『定額法』となります。
旧定額法や定率法の償却率もあるので混同しないように注意してください。
ちなみに、上記2の例、39年の定額法償却率は0.026となります。
以上で減価償却費の計算要素を算出することができるかと思います。
なかなかわかりづらい部分なのですが、取得価額は基本的に購入年より後に修正することはできません。
また、売却する際の税金計算にも影響を及ぼすことになりますので、購入年の取得価額・減価償却費の計算は慎重に行って頂きたいと思います。
10.サラリーマン投資家も確定申告が必要。減価償却を活用して節税
減価償却費についても確認しておきましょう。
サラリーマンも確定申告の対象なる場合があるので、要チェックです。
1)サラリーマンも確定申告の対象
サラリーマンの方は、会社が実施する年末調整により、基本的にはご自身で確定申告をする必要はありません。
会社が所得税の税額を確定してくれるためです。
ただし、給与の収入である給与所得以外の所得が20万円を超える場合にはご自身での確定申告が義務となります。
例えば、賃貸不動産を所有して投資を行っている場合、その賃料収入から管理費等の経費を控除した利益である不動産所得が20万円を超える場合は確定申告をしなければなりません。
反対に不動産所得が赤字となる場合、その赤字は給与所得と合算され全体の所得が少なくなります。
これを「損益通算」といいます。この場合も確定申告を行い、所得税の還付を受けることになります。
2)減価償却費計上で節税できる理由
損益通算は不動産所得が赤字であれば適用される制度です。
その赤字を給与所得と合算することで所得税の還付を受けることができます。
副業の収入であればどうでしょうか。
隙間時間を利用して、フリーランスとして副業をした場合、その所得が赤字となったとき、副業の所得の種類が事業所得であれば損益通算の適用があります。
しかし、事業所得とはメインの収入となるべき所得を指すため、隙間時間を使うような副業であれば普通は雑所得に区分されることになるのです。
雑所得には損益通算の適用がありません。
副業で赤字を作って所得税の還付を受けようということで安易に還付を受けてしまうと、損益通算が取り消され、後からペナルティとともに追加の納税をしなければならなくなります。
事業所得と雑所得の区分は明確な定めがなく個々の実態に応じて判断をするしかないのが現状のため慎重な判断が求められるのです。
その点、不動産所得(事業所得に分類)での損益通算は賃貸不動産の規模に関わらず適用されるため、赤字の場合は問題なく還付を受取ることができるのです。
不動産所得は減価償却費の大きさにより、費用の金額が大きく変わります。
減価償却費は取得価額×耐用年数に応じた償却率で計算されます。
そのため、物件購入時の建物の割合が大きい場合や建物の耐用年数が短い場合は、減価償却費が大きくなります。
購入年は不動産取得税や登録免許税、司法書士報酬など取得費用もかかってきます。
そうすると、賃料収入をこれらの経費が超えることになり不動産所得が赤字となり、損益通算が適用されるのです。
不動産所得が赤字となった場合には、物件購入に伴う借入利息のうち、土地分の利息として計算された金額については、給与所得との損益通算から除かれますので注意してください。