抵当権の調べ方は?全部事項証明書の見方や設定登記の方法も解説
不動産投資を始める際に、中古の不動産を購入するケースもあるでしょう。
また、所有している不動産を売却するケースや不動産を相続するケースも考えられます。
その時に注意したいのが、抵当権が設定されているかどうかです。
抵当権は、住宅ローンや不動産投資ローンを組む際、ローンを借り換える際などに設定される権利であり、抵当権が付いた不動産の取り扱いには注意が必要になります。
本記事では、抵当権を設定する意味や抵当権の調べ方、抵当権設定登記の流れや費用、抵当権の付いた物件の購入や売却、相続をする際の注意点などについてご説明します。
1.抵当権とは?
抵当権
不動産投資で融資を受ける際に、購入する不動産に対して金融機関が設定する権利のこと。
購入者が借り入れたローンの返済ができなかった場合に、金融機関は抵当権を実行して不動産を競売にかける。
その売却益をローン返済に充当する。
抵当権について知る上では、次の用語を理解しておく必要があります。
まず、不動産に抵当権を設定する人を「抵当権者」と言います。
不動産投資ローンを借り入れる場合、抵当権者は融資を行う金融機関となります。
そして、不動産の購入のため、所有する不動産を担保とする債務者を「抵当権設定者」と呼びます。
つまり、ローンを借り入れる不動産の購入者は抵当権設定者になるのです。
「登記」とは、重要な権利や義務を公に明らかにするための制度です。
登記をすることで、権利の内容を主張でき、第三者に対抗するための手段となります。
「登記簿」は、不動産の所在地や面積などの物理的状況と権利関係を法的に記録した帳簿です。
登記簿内の内容を書き写した証明書は「登記事項証明書」や「全部事項証明書」と呼ばれます。
2.抵当権の調べ方
不動産投資を行うにあたって、抵当権が設定されている物件を購入するケースもあるでしょう。
反対に、所有している物件を売却する場合も、抵当権が設定されているかどうの確認が必要になります。
抵当権が設定されているかどうかは、登記簿を確認して調べることができます。
全部事項証明書の情報を確認し、抵当権を示す欄を見れば、抵当権の設定の有無が分かるのです。
全部事項証明書の内容を確認する方法には、次の3つの手段があります。
1)法務局を訪問して全部事項証明書を取得
全部事項証明書は、誰でも法務局で取得できます。
法務局を訪れ、全部事項証明書交付申請書に必要事項を記入し、印紙を貼って窓口に提出すれば入手できます。
また、法務局の管轄が異なる場合であっても、1か所の法務局で全国の全部事項証明書の取得が可能です。
抵当権について調べたい物件が遠方にあっても、最寄りの法務局で手続きができます。
2)インターネットの登記情報提供サービスや登記・供託オンライン申請システムを利用
法務局を訪れる時間がない場合は、インターネットから登記情報を調べることも可能です。
「登記情報提供サービス」では、PDFファイルで必要な登記情報を閲覧できます。
登記簿の内容と全く同じものですが、証明文や公印等が付加されていないため、全部事項証明書として利用することはできない点に注意しましょう。
「登記・供託オンライン申請システム」では、オンライン上で全部事項証明書の請求が可能です。
発行された登記事項証明書は、郵送で受け取るか、法務局の窓口で受け取ることができます。
3)司法書士に相談する
司法書士は、不動産登記などの登記を代行する法律事務の専門家です。
登記事項証明書は、司法書士に相談し、取り寄せてもらうこともできます。
複数の不動産を所有している場合や、複数の土地にまたがる不動産の所有を検討している場合など、細かく確認したい場合には司法書士に相談した方が良いでしょう。
司法書士に相談すれば、購入や売却にあたってのアドバイスを受けられる可能性もあります。
3.全部事項証明の見方・確認方法
抵当権の有無は、法務局にある全部事項証明書(登記事項証明書)を見れば分かります。
全部事項証明書(登記事項証明書)
登記記録の全てが記録された証明書のこと。
不動産の状態や権利に関する情報などが載っている。
この全部事項証明書を見ることで、その不動産に抵当権が付いているかどうかが分かります。
下図をご覧ください。
法務省ホームページ「全部事項証明書(不動産登記)の見本」より
全部事項証明書は「表題部」と「権利部(甲・乙区)」に区分されます。
「権利部(乙区)」には、抵当権に関する情報が記載されています。
権利部(乙区)の「登記の目的」欄には抵当権設定とあり、抵当権が設定された物件であることが分かります。
続いて、その右端には「権利者その他の事項」欄があります。
債権者や債務者などの情報が記載され、抵当権設定者や抵当権者の詳細情報が載っています。
4.抵当権設定登記の方法や流れ、費用は?
抵当権設定登記について、詳細を説明します。
1)抵当権設定登記とは?
金融機関からローンを借り入れて新築物件を購入する、あるいは中古不動産を購入・相続する場合に抵当権設定登記が必要になります。
抵当権設定登記
「抵当権が付いた物件」であることを第三者に表示するために行う登記のこと。
なぜ抵当権を設定する?
抵当権とは、債権者である金融機関が、取得する土地や建物などの不動産を担保にする権利です。
抵当権を設定すると、万が一、ローンの返済が滞った場合には担保とした物件をもって弁済を受ける権利を得られます。
抵当権は、その物件を取得するための融資を行う金融機関だけが設定できるわけではありません。
他に債務がある場合は、他の債権者も債務者が所有する物件に対して抵当権を設定することができます。
抵当権の優先順位は、登記の順番で決定します。
複数の抵当権者がいる場合は、1番抵当権者が最も優先して、弁済を受ける決まりとなっています。
不動産を取得する場合には、ローンを組んだ金融機関が1番抵当権者となります。
なぜなら、物件を取得した人が別の債務を作った場合、他の債権者も不動産に抵当権を設定する可能性があるからです。
前述のように、複数の抵当権者がいる場合は、順位の高い方から優先して弁済を受けられる仕組みです。
そのため、もし、1番抵当権者だけで回収した債権が無くなった場合には、2番抵当権者や3番抵当権者など、後順位の抵当権者は全く弁済を受けることができなくなってしまいます。
融資を行う金融機関は、他の債権者が不動産を担保に弁済を受け、ローンの回収ができなくなってしまう事態を防ぐため、融資を実行する際には真っ先に抵当権を設定するのです。
2)抵当権設定登記の流れ
では、実際抵当権の設定はどのように行うのでしょうか。
その流れを確認していきましょう。
①金銭消費者貸借契約を締結
抵当権設定前に、まずは金融機関と金銭消費者貸借契約を締結します。
これはいわば不動産担保ローンの契約です。
金融機関からお金を借りるための契約書を交わします。
②抵当権設定契約の締結
次に、抵当権設定契約を締結します。
実務では①の金銭消費者貸借契約と同時に締結することがほとんどです。
「抵当権を設定します。これに同意しますね?」といった契約になります。
③必要書類の確認
契約が終わったら、設定登記に必要な書類を用意します。
具体的な必要書類に関しては後述しますが、登記書類の作成・申請は実際司法書士が行うケースがほとんどです。
司法書士とは不動産取引法務のプロのことで、不動産登記の作成・申請を代行してくれる国家資格者です。
④登記申請
登記申請は不動産所有者(購入者)と融資を実行した金融機関の両者で行い、それぞれが選んだ司法書士が代理申請をします。
自身で作成・申請もできますが、複雑で難解なためお勧めしません。
金融機関によっては、司法書士でないと融資しないところもあるので注意が必要です。
⑤全部事項証明書をもらい、金融機関に提出する
法務局に登記申請が完了したら、金融機関に全部事項証明書を送りましょう。
この作業も司法書士が代行してくれるケースが多くなっています。
依頼した司法書士にどこまでを代行してもらえるのか、確認をとっておくと安心です。
3)抵当権設定登記に必要な書類
必要書類は主に3つです。
抵当権設定登記に必要な書類
①抵当権設定契約書or権利証
②印鑑証明書・実印(3ヶ月以内のもの)
③本人確認書類(運転免許証など)
補足していくと、①においては登記原因証明情報が必要で、これが抵当権設定契約書にあたります。
抵当権設定契約書は、金融機関が用意します。
なお、購入と同時に抵当権設定登記を行う場合は、権利証は不要です。
また、司法書士に登記依頼をする場合は委任状が必要で、そのために本人確認書類が必要となることがあります。
委任状は、司法書士が作成します。
4)抵当権設定登記の費用
抵当権設定費用の種類
①司法書士費用
②登録免許税
③その他雑費
①司法書士費用の相場
司法書士への報酬は2~7万円ほどと言われています。
案件の規模によって変動するため幅広い相場となっています。
金融機関によっては、司法書士を選定しないと融資を実行しないケースもあるので、司法書士費用は必要経費と考えておきましょう。
②登録免許税
登録免許税とは、設定登記をする際にかかる税金のことです。
登録免許税の額は、ローンの借入額に対して0.4%を乗じた金額になり、次の式で算出することができます。
登録免許税=課税標準額(ローン額)×0.4%
2,000万円を借り入れた時の登録免許税は、次のように計算できます。
8万円=2,000万円×04%
③その他雑費
雑費の内訳としては、印鑑証明や全部事項証明書の発行手数料などです。
2つ合わせて1,000円前後です。
以上①~③の費用を合わせると、抵当権設定登記の費用相場は、総額10~20万円程度だと言えます。
不動産登記の異議や不動産登記の種類については、以下の記事で詳しくご説明しています。
不動産登記について理解を深めるためにもぜひ、次の記事もご一読ください。
【関連記事】不動産登記の手続き①~登記と種類~
5.抵当権抹消登記手続きとは?
ここまで抵当権設定登記について解説してきました。
次の章では抵当権付き不動産の購入や売却、相続をする際に注意すべき点について解説します。
抵当権付き不動産を扱う際には、抵当権の抹消登記について理解しておく必要があります。
抵当権抹消登記とは
金融機関によって設定された抵当権を、登記簿から抹消する手続き
抵当権抹消登記手続きを行うシーンとしては、不動産を売却・相続する時。
そしてローンの完済時や借り換えの時です。
ローンを完済したからといって抵当権は自動的に抹消されるものではありません。
また、不動産の売却や購入、相続時にも手続きをしなければ、抵当権は抹消されることなく継続されるため、注意が必要です。
抵当権の抹消手続きは、金融機関が行うものではなく、抵当権設定者である自分が行わなければなりません。
実際には司法書士に委託するケースがほとんどでしょう。
この点を踏まえた上で、最も大事な6章を見ていきましょう。
住宅ローン完済後に必要な抵当権抹消の手続きの流れについては、以下の記事で分かりやすくご説明しています。
ぜひこちらの記事もご一読ください。
6.【ケース別】抵当権付き不動産の注意点
抵当権付き不動産とは、ローンがまだ残っており、不動産がローンの担保となっている物件のことです。
中古の不動産を売却する時や購入する時は、抵当権が付いた状態の不動産であるケースも少なくありません。
また、親族から不動産を相続する場合にも抵当権が設定されている可能性もあります。
抵当権付きの不動産を購入・売却、相続する際の注意点を解説します。
1)抵当権付き不動産を購入する時の注意点
中古不動産の購入を検討する場合は、まず、抵当権が抹消されているかどうかを確認することが大切です。
抵当権が抹消されているかの確認は、第2項の「抵当権の調べ方」で説明したように、全部事項証明書を確認し、抵当権設定に関する部分に下線が引かれているかどうかで判断します。
抵当権が残っていても、不動産の売却で得た資金でローンの残債を返済するケースも多く、決済時に同時に抵当権の抹消と所有権の移転を行うケースも少なくありません。
中古物件を購入する際には、抵当権が抹消されているかどうか、または売主の責任で抹消してもらえるかどうかを確認することが大切です。
また、不動産の売買契約書の中に、抵当権の抹消についての条項があるかどうかも忘れずに確認をしましょう。
2)抵当権付き不動産を売却する時の注意点
所有している不動産の売却を検討している場合、その不動産に抵当権が付いているのであれば抵当権抹消登記手続きをした方が、売却はスムーズに進みます。
なぜなら、万が一、売主が売却益だけでローンを完済できない可能性を考え、抵当権付きの不動産には抵抗を覚える購入希望者も少なくないからです。
しかしながら、手持ち資金でローンの残債を全て返済することが難しい場合は、不動産の売却資金をローンの返済に充てる同時決済を行います。
その場合は、ローンの返済を完了した後に抵当権を抹消し、不動産の所有者名義を変更します。
3)抵当権付き不動産を相続する時の注意点
親などから相続する不動産に抵当権が付いていたとしても、相続によってそれが消滅するわけではありません。
不動産を相続する際にも、抵当権が設定されているかどうか確認しておくことが大切です。
では、抵当権が付いている場合、抵当権を外すにはどうすればいいのでしょうか。
方法は2つあります。
1つ目は、ローンを完済する。
2つ目は、相続しないです。
それぞれについて下記で解説していきます。
ローンを完済する
相続する不動産を売却したいと考える人もいるでしょう。
しかし、いざ不動産会社に査定してもらってみると「これは売れません」と突き返されるケースも少なくありません。
まさに“負動産”の状態というわけです。
相続後に損をしないためにも、まずは売却可能な物件かどうかを把握する必要があります。
具体的な方法について確認していきます。
相続後でも売却できる不動産であるかどうかは、不動産担保ローンの残債が下回っているかどうかで判断します。
アンダーローンとは、不動産の価値がローン残高を上回っている場合です。
アンダーローンの状態であれば、不動産を売却したお金でローンの残債を支払うことができます。
ローンを完済できれば抵当権が抹消でき、不動産会社にとっても買い取った後に売却しやすくなることが考えられます。
一方、オーバーローンとは、ローンの残債が売却価格を上回っている状態のことです。
したがって、オーバーローンの状態では、不動産を売却しても抵当権が外せないと予想されます。
結果、売れない物件だと判断されてしまい、不動産会社に買い取ってもらえません。
まずは、不動産会社に相談し、不動産の価値が残債を上回るアンダーローンであるかどうかを確認するようにしましょう。
相続しない
相続する不動産の価値がローンの残債を下回るオーバーローンだった人はどうすればいいのでしょうか。
結論としては、不動産を相続しないことをお勧めします。
中には「相続財産は必ず相続しないといけない」と思っている人が一定数います。
民法では、相続の全てを放棄する『相続放棄』が認められています。
全て放棄ということは、他の財産も手放す必要があるので要検討すべきです。
もし、「一部の財産だけを相続したい」と限定的に相続したい場合は『限定承認』という相続方法も選択肢にあります。
オーバーローンであれば、その不動産の相続は放棄しても良いことを押さえておきましょう。
まとめ
ローンを組む際に金融機関が設定する抵当権について解説してきました。
設定から抹消、ケース別の注意点と幅広く説明してきたので、下記に要点をまとめました。
本記事のまとめ
✔抵当権とは金融機関が他の債権者よりも優先的に返済してもらうために設定する権利
✔抵当権設定契約を金融機関と交わし、手続きは司法書士に委託する
✔ローンを完済することで抵当権を抹消できる
✔抵当権を抹消しないと売却はできない
✔不動産の相続は、アンダーローンかオーバーローンかで決める
抵当権の知識はあらゆるケースで役立つので、他の記事も参考にしてみてください。