不動産投資の損益分岐点とは?計算方法や仕組み、利益が出やすい物件の特徴を解説
何かしらの経営を始めるにあたり、「損益分岐点」は重要な指標です。
不動産投資においては、運用中と売却時の両面を考慮して損益分岐点を算出する必要があります。
本記事では、不動産投資の損益分岐点の考え方と、計算方法をわかりやすく解説します。
1.不動産投資における損益分岐点とは
損益分岐点の概要と、不動産投資における損益分岐点の考え方は次の通りです。
1)損益分岐点とは
損益分岐点とは、売上高とコストがちょうど同じ額になる時点のこと。
損益分岐点の通過後は、コストを削減すれば売り上げが伸び、利益が上がります。
反対に、売上高が減り、コストが増えれば赤字に。
黒字にも赤字にもならないポイントが損益分岐点なのです。
企業の経営状態を図る指標として用いられるだけでなく、不動産投資で利益を確保するためにも使用されています。
2)不動産投資の損益分岐点
不動産投資では、2つの損益分岐点を考える必要があります。
それは、運用中と売却時の損益分岐点です。
運用中の損益分岐点は、売上高にあたる家賃収入と、コストにあたる管理手数料やローン返済額などが同額になるポイントになります。
売却時の損益分岐点は、売却益や売却までに得た家賃収入の合計額と、物件購入の費用や運用時のランニングコストなどの合計額が同額になるポイントです。
2.【シミュレーションあり】不動産投資の損益分岐点の計算方法
不動産投資の損益分岐点は、どのように計算すればよいのでしょうか。
1)運用時の損益分岐点
運用時の損益分岐点は、次の計算式で計算できます。
(年間のランニングコスト+年間のローン返済額)=年間の家賃収入
したがって、損益分岐点となる入居率は、
(年間のランニングコスト+年間のローン返済額)÷満室時の年間家賃収入で求められます。
例えば、以下の条件で不動産投資を行っていると仮定します。
- 1か月の家賃収入:10万円
- ランニングコスト:2万円/月
- ローン返済額:6.6万円/月
この場合の損益分岐点となる入居率は、
(24万円+79.2万円)÷120万円=0.86となります。
つまり、年間86%以上の入居率を維持すれば、損益分岐点を下回らず、利益を出せるということです。
反対に、入居率が86%以下だと赤字になってしまいます。
年間10.3か月以上入居者を獲得できれば、損益分岐点を下回ることはなく、反対に1.7か月以上にわたって空室が続けば赤字になるわけです。
運用時の損益分岐点の計算は、空室率の目安に利用することができます。
2)売却時の損益分岐点
売却時の損益分岐点は、収入額と支払額が等しくなるポイントです。
次の式で表すことができます。
売却価格+売却までの期間に得た家賃収入の合計額=
運用時のランニングコストの総額+売却時の残債+購入時の頭金+購入時・売却時の諸費用
仮に、以下の条件で15年間運用し、15年後に1,800万円で物件を売却した場合の損益分岐点をシミュレーションします。
- 購入時のマンション価格:2,300万円
- 借入金額:2,000万円
- 年間ローン返済額:79.2万円
- ローン金利:2%
- 借入期間:35年
- 表面利回り:6%
- 年間家賃収入:120万円
- 購入時の諸費用:100万円
- 年間ランニングコスト:24万円
- 売却時の諸費用:90万円
<収入>
空室期間はなかったものとして、15年間の運用で得られる収入を考えます。
- 15年間の運用収入:2,300万円×6%×15年=2,070万円
<支出>
- 購入時と売却時の諸費用:100万円+90万円=190万円
- ランニングコスト合計:24万円×15年=360万円
- ローン返済額合計:79.2万円×15年=1,188万円
- ローン残債:1,510万円
- 頭金:300万円
これらの数字を計算すると、コストとして支払う費用は、
190万円+360万円+1,188万円+1,510万+300万円=3,548万円。
したがって、損益分岐点となる売却価格は、3,548万円-2,070万円=1,478万円です。
つまり、15年後に1,478万円以上で物件を売却できれば、15年間のトータル利益は黒字になるということが分かります。
3.不動産投資における損益分岐点の活用法と注意点
損益分岐点の計算方法が分かったら、物件購入時や出口戦略を検討する際に活用しましょう。
1)物件購入時には損益分岐点の計算をしよう
これから不動産投資を始める人は、物件購入時に物件価格や想定家賃、ローン返済額などから損益分岐点の計算をしましょう。
計算の結果、入居率に全く余裕がない場合は、短期間でも空室が発生すると赤字になってしまいます。
損益分岐点を計算し、ある程度の空室が発生しても収支がマイナスにならないような投資用物件を購入しましょう。
2)売却時の損益分岐点から出口戦略を考える
不動産投資の出口戦略を考えるときも、売却時の損益分岐点の計算が有効です。
運用中は収益を上げられていても、購入価格と売却価格の差でトータルコストが上回る可能性も。
運用中と売却時に得られる収入を合わせ、その合計額がコストを上回るタイミングを意識して、出口戦略を考えましょう。
3)損益分岐点は長期的視点で考える
例えば、空室期間が想定より長く続いてしまった場合や、設備故障により突発的な出費が発生した場合などは、一時的に収支が悪化することもあるでしょう。
もし、空室期間があり、設備投資に費用がかかった年があったとしても、翌年は空室が発生せず、設備投資が不要となるケースもあります。
その場合、数年間というスパンで考えれば、収支は黒字になることがほとんどです。
不動産投資は、一時的な収支を見るのではなく、中長期的な視野で考えることが大切です。
関連記事:不動産投資は何年で元取れる?マンション経営がプラス収支になるまでの計算法
4.損益分岐点から考える「利益が出やすい投資物件」の特徴とは?
ここからは、損益分岐点という観点から、利益が出やすい物件の特徴を考えます。
損益分岐点は物件や借入額によって異なりますが、入居率を8~9割維持できれば収益が上回る可能性が高いでしょう。
また、ローン残債を上回る金額で売却できれば、トータルでプラスになる可能性も。
これらの条件を満たすのは、次のような物件です。
1)資産価値が底堅い好立地の物件
高入居率で資産価値が底堅いのは、やはり好立地の物件です。
「好立地」とは、長期的に人口が減らないエリアです。
わかりやすいところで言えば「駅前」や「駅近」ですが、「幹線道路沿い」や「人気の学区」なども普遍的な賃貸需要が期待できます。
とはいえ、日本は今後、人口が増える見込みがなく、街もコンパクトになっていくでしょう。
都市部であっても、人口が維持されるとは限りません。
また、地価や不動産の需要が特定の商業施設や企業などに依存したものである場合は、それらが撤退することで大きく物件価値や賃貸需要を落とす恐れも。
各自治体では、人口推計などを公表しています。
これらの情報を確認し、「今」の需要だけでなく「将来」の需要を予測して物件を選ぶことが大切です。
2)突発的な出費が発生しにくく自然災害リスクも低いエリアの物件
近年は、自然災害が多発化・激甚化しています。
街をコンパクトにしていくにあたり、まず居住誘導地域から外されるのが、災害リスクの高いエリアでしょう。
2024年10月には、火災保険の料率が見直され、水害リスクの高いエリアの水災補償の保険料が高くなることが決定しています。
2020年には、不動産業者に、不動産を購入する人に向けた水害ハザードマップの重要事項説明が義務付けられました。
こうした動きは、災害リスクの高いエリアの不動産価値の低減につながることが予想されます。
資産価値の観点だけでなく、投資中に大規模な災害が起これば、突発的な修繕費用の負担や空室率の上昇なども懸念されるため、できる限り資産災害リスクの低いエリアを選ぶようにしましょう。
3)資産価値の大幅な上昇に期待できる再開発・注目企業誘致エリアの物件
人口や世帯数の減少が進むこれからの時代ですが、中には人口増加が見込めるエリアもあります。
それは、再開発や注目企業の誘致が予定されているエリアです。
たとえば、台湾の半導体メーカーTSMCが誘致された熊本県菊陽町周辺では、近年、地価が大きく上昇。
半導体は国の特定重要物資に指定されており、生産施設や設備の導入に対して支援措置が講じられています。
関連企業も多いことから、周辺の地価や不動産価格に与える影響が大きいのです。
また、東京では「100年に1度」の規模といわれる再開発が各地で進行しています。
コロナ禍で一時落ち込んだ転入超過数は、ほぼコロナ禍前の水準まで回復しました。
都市計画だけでなく、こうした民間の動きにも注目して将来性を見極めるようにしましょう。
まとめ
損益分岐点とは、支出と収入がちょうど等しく釣り合っているポイントです。
損益分岐点を上回れば利益が増え、損益分岐点を下回ると赤字になります。
不動産投資においては、運用時と売却時の損益分岐点の計算方法を把握しておくことが大切です。
物件を購入する際は、今回ご紹介した損益分岐点の計算方法を活用してみてください。