不動産売買の「買付証明書」とは?書き方のポイント、購入が有利になる理由を解説
不動産は「買いたい」と思って、必ず購入できるものではありません。
買主は、購入を希望する物件の売主に対し「買付証明書」を提出します。
この書類は、簡単にいえば「購入したい」という意思を伝えるものです。
売主が書面を見て「この人に売ってもいいかもしれない」と思ってはじめて、売主・買主間で売買に向けた話し合いがスタートします。
買付証明書に法的な拘束力はないものの、不動産を購入する意思を示すものとしてなくてはならない存在です。
本記事では、買付証明書の解説と、購入を有利に進めるための書き方をお伝えします。
1.「買付証明書」とは
「買付証明書」とは、「物件を○○円で購入したいです」という意思表示を買主が売主に対して行う書類です。
買受証明書、購入申込書等の名称で呼ばれることもあります。
以下は、買付証明書の例です。
書式に決まりや法的拘束力はありません。
一般的に、不動産仲介会社が用意してくれることが多いです。
記載項目は以下になります。
- 購入希望者の住所・氏名
- 購入希望価格
- 手付金・中間金・残代金
- 契約希望日
- 引き渡し状態等の希望条件
- 有効期間
- 買主情報
- その他の条件
仲介会社が用意した書類によって、記載項目の有無が異なるケースがあります。
2.買付証明書の記載項目ごとの書き方ポイント
買付証明書には、決まったフォーマットがあるわけではありません。
買付証明書を書くうえで重要なのは、売主に売却を前向きに検討してもらえる内容にすることです。
ここでは、一般的に買付証明書に記載される項目と書き方のポイントを解説します。
1)希望購入金額
希望購入金額は、あくまで買主が希望する金額を書く項目です。
パンフレットやサイトで提示されている値段とは異なる場合があります。
たとえば、3,000万円で売り出されている物件に対し、希望購入金額を2,000万円としても構いません。
しかし、先述のとおり売主に売却を前向きに検討してもらえるかが重要です。
売り出し価格と著しく乖離した希望購入金額を記載することで、交渉に進める可能性が下がるかもしれません。
2)物件情報
所在地や家屋番号、構造や面積等を記載します。
家屋番号は不動産の登記上、建物を特定するための番号です。
登記簿謄本を閲覧して確認できますが、記載は必須ではありません。
分からない部分は仲介業者に問い合わせてみましょう。
3)手付金・中間金
手付金とは、売買契約時に買主が売主に預けるお金で、後に購入代金の一部となります。
物件価格の5~10%程度となり、上乗せすれば売主に対して物件購入の本気度をアピールできます。
融資特約を付帯した場合、「手付金は返還する」という文言を入れるケースが多いです。
中間金は、手付金と残代金を支払う間に払うお金です。
取引によっては、中間金がないことも。
中間金や手付金の額が高いほど、売主としては物件売却を前向きに検討したくなるでしょう。
無理な金額を書くことは避けるべきですが、手付金額には融資審査を有利にしたり、売却後のリスクを減らしたりする効果もあります。
なんとなく物件価格の5%や10%程度に設定するのではなく、慎重に金額を検討しましょう。
関連記事:不動産売買契約における手付金とは?
4)残代金
残代金は、購入希望金額から手付金と中間金を差し引いた金額。
物件の引き渡しが行われる際に、残代金の支払いと引き換えに鍵を受け取るケースが多いです。
5)有効期間
買付証明書の有効期間は、1~2週間が一般的。
長くても1ヶ月以内が目安となります。
買付証明書を提出さえすれば、物件を購入できるわけではありません。
記載内容と売主との意向に乖離があれば、提出後に交渉が入ります。
交渉は長期化する可能性もあるため、購入意思が強い場合は長めに有効期間を設定しておきましょう。
6)買主情報
買主情報は売主にとって、「買主が物件を購入できる人物か」を判断するための項目です。
年収は源泉徴収票の「支払金額」の欄に記載されている金額を記入しましょう。
自己資金が多い場合、「自己資金:有価証券3000万円、預貯金2000万円」のように記載することで、売主に対し「物件を購入できる資産を持っている」とアピールできます。
7)契約希望日・引き渡し希望日
売買条件は、売主と買主の交渉で決定します。
契約希望日・引き渡し希望日の項目についても、買主の希望を記載すれば問題ありません。
融通を効かせることができる場合は、その旨も記載しておくと良いでしょう。
例えば、「売主の希望に合わせます」といった旨や、一定の期間を提示して、売主が希望する日を選べるようにしておくと好印象を与えることができます。
8)その他条件
「融資特約」という「融資が通らなかった場合には購入希望を取り下げ、手付金等を返還してもらう」という特別な約束を記載します。
不動産投資では多くの場合でローンを組むため、融資特約を付けておきましょう。
自己資金以外で「一部上場企業の管理職である」「▲▲信用金庫から過去10年で3回融資を受けたことがあり、信用力がある」といったアピールポイントがあれば「その他条件」に記載しましょう。
売主が買付証明書を見るにあたって気にする点は、以下のとおりです。
・購入意欲が高いのか
・本当に購入できる属性か
この2点について好印象を与えられる情報があれば、積極的に記載すると良いでしょう。
3.買付証明書の注意点
買付証明書について、注意点をご紹介します。
1)買付証明書は申込書ではない
買付証明書は、不動産取引に必要な書類です。
人気のある物件は多くの購入希望者が買付証明書を出すため、購入できないケースも。
物件購入の申込書ではないことを忘れてはいけません。
2)損害賠償の責任も
買付証明書は、物件を購入する点で法的な拘束力を持ちません。
しかし、ある程度話が進んだ後に不合理な理由で契約が流れてしまった場合、購入希望者と売却希望者は互いに損害賠償を請求できる可能性があります。
実際、売却希望者から購入希望者に対して、損害賠償請求が認められた判例もありました。
3)キャンセルに注意
買付証明書を提出した後に、何らかの事情で物件の購入を取り下げる場合は注意が必要です。
売主や仲介業者が買付証明書を重んじている場合は、自己都合で買付けをキャンセルすると信用を失ってしまいます。
後に、別の物件を購入・融資を受ける際に影響が出てしまうこともあるため、買付証明書は慎重に検討して提出しましょう。
4)売主へのアピール書類ともなる
物件の条件が良い場合は、ライバルとなる他の購入希望者も多くなります。
慣例では、売主は買付証明書の提出順に交渉すると言われていましたが、現在は必ずしも先着順で対応するというわけではありません。
買付希望条件が同じ水準であれば順番に対応するオーナーや仲介会社も存在するかもしれませんが、人気のある物件に対して一番に買付証明書を出すことは難しいでしょう。
買付証明書でアピールすべきは、自分が「確実に購入できる客」であること。
例えば、物件を一括現金で購入できる資金力の高さは売主へのアピールとして有効です。
しかし、不動産投資ではローンを利用したレバレッジ効果が魅力の一つなので、現金で購入する人は極少数でしょう。
そのため、買付証明書では「融資特約なし」「売主の希望価格に上乗せ」といった条件面でライバルに差をつけるケースが少なくありません。
前述の「その他条件」で紹介した「社会的信用があり返済能力がある(医師や弁護士等の資格を持っている)」など、個人属性でアピールしましょう。
4.買付証明書は不動産取引で重要な書類
買付証明書は、物件の購入意思を表示する大事な書類です。
正式なフォーマットはありませんが、不動産会社が用意していることが多いので提出する際は尋ねてみましょう。
上記の見本を参考に、Word等で自作することも可能です。
売主にとって希望条件・買主情報を知ることができる有益な書類であることも、買主側は覚えておきましょう。