不動産投資で法人化する目安は?メリットを最大化させるベストタイミングは2つある
不動産投資を行う場合、個人事業主として投資を行う方法と法人化して投資を行う方法があります。
不動産投資で法人化する最大のメリットは節税できる点ですが、タイミングをしっかりと見極めなければ法人化のメリットを十分に享受できません。
では、どのタイミングで法人化すればメリットを最大化できるのでしょうか。
今回は、不動産投資で法人化することのメリットと法人化すべき2つのベストタイミングについてご紹介します。
1.不動産投資の法人化とは
不動産投資の法人化とは、投資家が代表となって株式会社などの資産管理会社を設立し、法人として不動産投資を行うことです。
不動産投資を法人化すると、設立した法人が物件を購入、保有、管理することとなり、投資家は法人から役員報酬を受け取る形で収益を得ます。
法人化の最大のメリットは、節税ができる点です。
節税できれば、その分、手元に残るお金は大きくなります。
しかしながら法人化するタイミングを見誤るとデメリットの方が大きくなってしまうため、法人化するにあたってはタイミングをしっかりと見極めることが非常に大切になってくるわけです。
2.不動産投資で法人化するメリットについて
1)節税効果が高い
個人事業主として投資を行う場合に納税が必要になる所得税は、所得が高額になるほど高い税率が課せられます。
不動産所得が高額になる場合には、個人として納税する所得税の税率よりも法人として納税する法人税の税率のほうが低くなるため、法人化することで納税額を抑えることができます。
所得税と法人税の違い
不動産投資の所得に対しては、個人の場合は所得税、法人の場合は法人税を納税します。
それぞれの課税所得に対する税率は、以下の表のようになります。(令和5年9月現在)
所得税の税率
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円~330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円~695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円~900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円~1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円~4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
法人税の税率(開始事業年度が令和4年4月1日以降の場合)
資本金1億円以下の法人 | 課税所得800万円以下の部分 | 課税所得800万円以上の部分 |
法人税税率 | 15% | 23.2% |
この表から、課税所得が900万円を超えた場合、所得税の税率が33%であるのに対し、法人税の税率は23.2%となり、法人税と所得税の税率が逆転することが分かります。
つまり、不動産所得を含めた課税所得が900万円を超える場合は、節税の効果を期待できるといえるでしょう。
2)経費計上できる範囲が広がる
法人の場合、家族を役員にして報酬を支払うことや退職金の積み立てが可能になり、これらを経費として計上することができます。
また、生命保険の経費計上可能額も大きくなります。経費として扱える額が増えれば、課税対象となる額を圧縮することができます。
3)損失の繰越期間が長くなる
個人事業主として青色申告を行っている場合、損失が生じた場合の繰り越し可能期間は最大で3年間ですが、法人の場合は最大10年間の繰り越しが認められています。
不動産投資の確定申告の方法や注意点については、次の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】不動産投資の確定申告のやり方。節税方法や注意点を解説
4)相続時の節税対策ができる
個人事業主として不動産投資を行う場合、不動産の所有者は投資家個人です。
そのため投資家が亡くなった場合には、個人名義の不動産には相続税や贈与税が課せられますが、法人の場合は代表が亡くなった場合でも相続税や贈与税は発生しないため、法人化は相続時の節税対策にもつながります。
相続税における節税対策にも不動産投資が有効である理由については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】【相続税対策】節税するなら不動産の購入がおすすめ!その理由は?
3.不動産投資で法人化するデメリットについて
1)会社設立の費用と手間がかかる
法人を設立するためには、10~30万円程度の費用が必要になります。
2)維持費用がかかる
税理士費用、社会保険料など法人を維持するためにはランニングコストも必要になります。
3)赤字の場合でも法人住民税の支払いが必要
法人住民税は、赤字の場合であっても均等割の金額を支払う義務があります。
自治体によって多少の違いはありますが、標準的に年間7万円の支払いが必要です。
4)長期保有後の売却時にかかる税率が高くなる
個人が所有する物件の場合、5年以上保有した物件を売却する際の利益にかかる譲渡税の税率は約20%、5年未満の所有期間で売却する場合の税率は約40%です。
一方、法人の場合の税率は保有期間の区分がなく、どのタイミングで売却しても税率は約30%となります。
したがって、5年以上の保有した後に物件を売却する場合には法人化した方が高い税金を納めなければならなくなる点は法人化のデメリットだといえます。
5)途中から法人化する場合には不動産取得税と登記費用が必要
個人名義の物件を法人の所有に変更する場合には、改めて不動産取得税と登記費用が必要になります。
不動産取得税の計算方法など、不動産取得税については次の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】不動産取得税はいくらかかる?計算方法や軽減措置を解説
4.不動産投資で法人化する2つのベストタイミングとは
不動産投資で法人化することのメリット、デメリットをご紹介しましたが、どのような場合に不動産投資で法人化するとメリットの方が大きくなるのでしょうか。
一般的には、不動産投資を法人化するベストなタイミングは「課税所得が900万円を超える」ときと「新たに不動産投資を始める」ときの2つだといわれています。
1)課税所得が900万円を超えるとき
所得税と法人税の額を計算すると以下のようになります。
課税所得900万円の場合
所得税 900万×33%-1,536,000=1,434,000円
法人税 800万×15%+100万×23.2%=1,432,000円
課税所得950万円の場合
所得税 950万×33%-1,536,000=1,599,000円
法人税 800万×15%+150万×23.2%=1,548,000円
課税所得が900万円の場合はわずか2,000円ほど法人税のほうが安くなりますが、課税所得が950万円となると法人税のほうが所得税より5万円も安くなります。
したがって、一般に法人化のタイミングとしては課税所得が900万円を超えるラインが一つの目安になると言われています。
個人名義の物件を法人の所有に変更する場合には、改めて不動産取得税と登記費用が必要になります。
そのため、大規模な事業展開を目指す場合には初めから法人化した方が、無駄なコストを省くことができますが、初めは少額な投資から始めたい場合もあるでしょう。
そのような場合には、課税所得が900万円を超えそうなタイミングで綿密なシミュレーションを行い、法人化することによるメリットの方が大きいかどうか慎重に考える必要があります。
2)不動産投資を始めるタイミング
不動産投資を始めるのであれば、経費はかかるものの最初から法人化した方がよいケースが多くあることをご存じでしょうか。
最初から法人として事業の実績や融資の実績を作っていけば、後々、投資を拡大していくときに金融機関からよい条件で融資を受けられるようになります。
また、前述したように資産拡大のために所有から5年未満で物件を売却する場合も、法人の方が税率を低く抑えられます。
後々、自分で事業を起こしたいと考えている方の場合は特に、初めから法人化しておいた方がメリットは大きくなります。独立後に不動産投資を法人化しようとしても法人の実績がなければ融資が受けられない可能性が高くなるのです。
しかし、独立前から不動産投資を法人化しておけば、これまでの法人としての不動産投資の実績が評価されるため、融資を受けることができます。
このように、不動産投資の法人化にはさまざまなメリットがあり、計画的に資産拡大を狙っているのであれば不動産投資を始めるタイミングで法人化することをおすすめします。
経営者1人だけで運営するマイクロ法人については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】副業サラリーマンがマイクロ法人を設立するメリット・デメリットとは
また、所有している不動産の相続を考えているタイミングも法人化に適したタイミングとなります。
法人には相続税の概念はないため、法人を設立して不動産を法人の所有とすれば、相続税も節税できます。
また、法人化して家族を役員にすれば、残された家族に賃料収入を役員報酬として支払うことも可能です。
5.法人化する前のチェックポイント
不動産投資を法人化する際には、タイミングを見極めなければデメリットの方が大きくなってしまう場合があります。
法人化の前には次のポイントに注意し、法人化によってメリットを得られるかどうかを確認しておきましょう。
・課税所得の総額を確認する
課税所得が900万円を超えるあたりが、法人化による節税のメリットを得られるラインであり、課税所得が900万円以下であれば法人化による節税効果は得られません。
不動産投資をされている方のほとんどは、本業で収入を得ています。不動産所得と本業での所得を合算し、課税所得の総額がいくらになるのかを事前に確認し、法人化による節税が期待できるかどうかを確認しておきましょう。
・減価償却期間と年間の減価償却費を確認する
個人で不動産投資をする場合は建物の経年劣化分を建物の構造ごとに決められている耐用年数に応じて、必ず減価償却しなければなりません。
一方、法人の場合は減価償却をするかどうかは、自由に決めることができます。そのため、減価償却をするかどうかで売却時の譲渡税額が大きく変わってきます。
物件売却時の譲渡税額は、次の式で計算できます。
{売却時の物件価格-(取得時の物件価格-保有期間の累計減価償却費)}×譲渡税率
個人の場合は必ず減価償却をしなければならないため、売却益が大きくなり、譲渡税額も高くなります。
しかし、法人の場合は、減価償却をしなければ物件の取得価格と売却時の簿価に大きな差がなくなるために売却益が小さくなり、売却益が小さくなれば譲渡税額も低く抑えることができるのです。
特に、取得から5年以内で売却する短期譲渡の場合の譲渡税率は法人の方が低くなるため、5年以内で売却したいと考えている場合は、法人化した方が譲渡税額を大幅に抑えることができます。
法人化する際には、売却予定の時期と累計の減価償却費から売却時の譲渡税額を算出して、法人化した方が譲渡税額を抑えられるかどうかも確認することが大切です。
6.不動産投資の法人化の手続き方法
不動産投資の法人化を行う際には、以下のような手続きが必要です。
法人の種類、発起人、役員、資本金、商号などを決める
まず、法人の種類や役員、商号など会社の概要を決定します。法人の種類によって決めるべき事項が異なるため、事前に決定すべき事項を調べておくようにしましょう。
法人運営の基本的な規則をまとめた定款を作成し、公証役場で認証を受ける
次に、法人を運営するうえでの基本的な規則を記載した定款を作成します。
定款はひな形などを利用して自分で作成することもできますが、作成が難しい場合は司法書士に依頼するとよいでしょう。
定款が完成したら公証役場に提出して認証を受けます。
この際に必要となる書類は
- 定款3部
- 印鑑登録証明書
- 収入印紙
- 定款認証手数料
です。
ただし、オンラインで申請する場合は、収入印紙は不要となります。
発起人名義の銀行口座に資本金を振り込む
定款の認証が済んだら、銀行口座に資本金を振り込みます。法人名義の口座は法人設立後でなければ開設できないため、発起人名義の口座に資本金を振り込み、払い込み証明書を作成します。
設立登記申請書と必要書類を準備し、法務局に登記申請する
- 設立登記申請書
- 定款の謄本1部
- 登録免許税
- 法人実印の印鑑届出書
- 出資金の払い込み証明書
などを法人の所在地を管轄する法務局に提出して、登記申請をします。
登記申請の方法には窓口に出向く方法のほか、郵送やオンラインで行う方法もあります。
7.まとめ
不動産投資で法人化することのメリットとデメリットについてご紹介しました。
一般的に不動産投資で法人化することで得られるメリットが大きくなるのは、課税所得が900万円を超えるラインだといわれています。
また、不動産投資を始めるタイミングも、法人化するベストタイミングの一つです。特に、今後、投資の規模を拡大していきたいと考えている場合には、法人化して実績を積んだ方が2件目、3件目の物件を取得する際に融資を受けやすくなります。
しかしながら、不動産投資の法人化にはメリットだけでなくデメリットもあり、今後の投資方針によっても人それぞれ法人化に適したタイミングは異なる可能性があります。個人での判断が難しい場合は専門家に相談してみるとよいでしょう。