収益還元法を知るとなぜ投資用不動産が高く売れる?をわかりやすく解説

投資用不動産の査定にはいくつかの算出方法がありますが、投資用不動産の売買の際に最もよく使われるものが「収益還元法」と呼ばれる手法です。
一方、居住用物件の売買で主に使われる査定方法は「取引事例比較法」です。
両者は評価方法が大きく異なるため、同じ物件であっても、査定方法によって全く違う査定額が算出されることもあります。
投資の出口の時期や手段を見極めるには、不動産の査定方法を知っておくことが不可欠です。
そこで今回は、不動産投資に役立つ収益還元法の概要と算出方法についてわかりやすく説明します。
1.収益還元法の概要とそのメリット
収益還元法は、不動産投資を行ううえで必ず知っておきたい不動産の価値算定法です。
まずは、収益還元法の概要と収益還元法を知っておくことのメリットを紹介します。
収益還元法とその他の不動産価格算出方法
不動産価格の主な算出方法には、収益還元法の他に、「原価法(積算法)」、「取引事例比較法」があります。
収益還元法
収益還元法とは、不動産がもつ収益性に着目した不動産価格の算出法です。
不動産が今後どれだけの収益を生み出すことができるのか、将来的に期待することができる収益をもとに不動産価格を算出します。
原価法(積算法)
原価法とは、同じ場所に再度同じ建物を建設するときにかかる費用を求めることを基本にした考え方です。
路線価や固定資産税評価額などをもとにして土地と建物の価格を算出し、そこに年月の経過による価値の低下を差し引いて、現在の不動産の価格を導き出します。
取引事例比較法
取引事例比較法とは、類似した条件の不動産の取引事例を収集して比較を行い、対象物件の価格を査定する方法です。
収益還元法の活用メリット
収益還元法を活用するメリットは、次のとおりです。
投資用不動産の取得価格が適正であるかを見極めることができる
収益還元法で算出された価格は、収益価格と呼ばれます。
収益還元法は対象の不動産が将来的にどのくらい稼ぐ力をもっているのかを示すために有効な算出方法であり、不動産投資において最も重要な収益力を表すことができる査定方法です。
したがって、収益還元法を理解しておけば、投資用不動産を取得する際に物件価格が適正なものであるのかを見極める大切な判断基準の1つとなります。
銀行の融資を受ける際の資料として役立つ
投資用不動産を取得する際には銀行から融資を受ける場合がほとんどであり、銀行からどのくらいの融資を受けることができるのかによって、用意すべき自己資金や投資することができる不動産は大きく変わってきます。
銀行では、投資家の収入や勤務先等の情報だけでなく、投資物件の収益性についても判断したうえで融資額の決定を行います。
そのため、収益還元法を理解し、対象物件の収益性を示すことができれば銀行の融資依頼の際にも大いに役立てることができるのです。
2.収益還元法の2つの算出方法
収益還元法には、「直接還元法」と「DCF法」の2つの算出方法があります。
それぞれの算出方法についてご紹介します。
直接還元法
直接還元法は、DCF法に比べて簡易的に不動産価格を算出することができるため、よく利用されている算出法です。
直接還元法は1年間の純利益を還元利回りで割る計算方法で、以下の式で不動産価格(収益価格)を求めることができます。
不動産価格=1年間の純利益÷還元利回り
1年間の純利益とは、年間の家賃収入額から経費(管理費、固定資産税、修繕費、入居者募集の広告費等)を差し引いた金額です。
還元利回りとは、キャップレートとも呼ばれるもので、その投資物件から得ることのできる利回り(1年間の利益の割合)のことです。
還元利回りは、「1年間の純利益÷不動産価格×100」で求めることができますが、正確な還元利回りを算出することは難しいため、類似物件の取引事例を参考にするケースや不動産会社などが公表している地域ごとの利回りデータなどを活用するケースがほとんどです。
それでは、モデルケースをもとに、不動産の価値をシミュレーションしてみましょう。
モデルケース(ワンルームマンション)
- 年間賃料: 100万円
- 年間経費: 20万円
- 利回り: 5%
年間純収入 = 100万円 – 20万円 = 80万円
不動産の価値 = 80万円 / 0.05 = 1,600万円
したがって、このワンルームマンションの価値は1,600万円ほどと考えられます。
モデルケース(ファミリーマンション)
- 年間賃料: 180万円
- 年間経費: 36万円
- 利回り: 5%
年間純収入 = 180万円 – 36万円 = 144万円
不動産の価値 = 144万円 / 0.05 = 2,880万円
したがって、このワンルームマンションの価値は2,880万円ほどと考えられます。
DCF法
DCF法は、ディスカウントキャッシュフロー法の略で、不動産を所有している期間の純利益と、所有を終えて不動産を売却した際に得られる予想売却価格とを現在の価値に当てはめて計算し、その2つを合計することで不動産価格を算出するものです。
DCD法の計算では、純利益と予想売却価格に空室や家賃を下げるなどのリスクを加味した割引率を使用します。
計算式は、以下のようになります。
不動産価格=年間純利益の現在価値の合計+予想売却価格の現在価格
所有年数ごとの現在価値は、純利益÷(1+割引率)^n(nは所有年数)で求めることができます。
それでは、モデルケースをもとに、1年目から5年目までのキャッシュフローと現在価値をシミュレーションしてみましょう。
モデルケース(ワンルームマンション)
年間賃料: 100万円
年間経費: 20万円
5年後の売却価格: 1,000万円
割引率: 5%
【キャッシュフロー】
1年目:100万円 – 20万円 = 80万円
2年目:100万円 – 20万円 = 80万円
3年目:100万円 – 20万円 = 80万円
4年目:100万円 – 20万円 = 80万円
5年目:100万円 – 20万円 + 1,000万円 = 1,080万円 (売却金額1,000万円 + 100万円 – 20万円)
現在価値を計算するために、1年目から5年目のキャッシュフローを割引率で割ります。
1年目:80万円 / (1 + 0.05)^1 ≒ 76.19万円
2年目:80万円 / (1 + 0.05)^2 ≒ 72.42万円
3年目:80万円 / (1 + 0.05)^3 ≒68.79万円
4年目:80万円 / (1 + 0.05)^4 ≒ 65.30万円
5年目:1,080万円 / (1 + 0.05)^5 ≒ 777.08万円
これらの現在価値を合計して、ワンルームマンションの現在価値を算出します。
現在価値≒76.19万円 + 72.42万円 + 68.79万円 + 65.30万円 + 777.08万円 ≒ 1,059.78万円
したがって、このモデルケースのワンルームマンションの現在価値は約1,059.78万円となります。
モデルケース(ファミリーマンション)
- 年間賃料:180万円
- 年間経費:36万円
- 5年後の売却価格:3,000万円
- 割引率:3%
【キャッシュフロー】
1年目:180万円 – 36万円 = 144万円
2年目:180万円 – 36万円 = 144万円
3年目:180万円 – 36万円 = 144万円
4年目:180万円 – 36万円 = 144万円
5年目:180万円 – 36万円 + 3,000万円 = 3,144万円 (売却金額3,000万円 + 180万円 – 36万円)
現在価値を計算するために、1年目から5年目のキャッシュフローを割引率で割ります。
1年目:144万円 / (1 + 0.03)^1 ≒ 139.81万円
2年目:144万円 / (1 + 0.03)^2 ≒ 135.77万円
3年目:144万円 / (1 + 0.03)^3 ≒ 131.86万円
4年目:144万円 / (1 + 0.03)^4 ≒ 128.07万円
5年目:3,144万円 / (1 + 0.03)^5 ≒ 2,743.11万円
これらの現在価値を合計して、ファミリーマンションの現在価値を算出します。
現在価値 ≒139.81万円 + 135.77万円 + 131.86万円 + 128.07万円 + 2,743.11万円 ≒ 3,278.62万円
したがって、割引率3%を適用した場合のファミリーマンションの現在価値は約3,278.62万円となります。
3.「収益還元法」と「取引事例比較法」の違い
収益還元法は収益物件の売買で、取引事例比較は主に居住用物件の売買で用いられる査定方法です。両者を比較した場合、取引事例比較法で算出された金額のほううが総じて高くなる傾向にあります。その理由は、次のとおりです。
- 実際の取引価格を基にして算定する
- 市場の動向が即座に反映されやすい
- 感情や主観が売買価格に反映される
収益還元法は収益性、ひいては賃料が査定額を大きく左右しますが、賃料は市場を即座に反映するものではないことから、とくに不動産価格が上昇している昨今では取引事例比較法による査定のほうが高額になりやすいという傾向があります。
したがって、収益不動産の売り方として、居住者が退去したタイミングで売るというのも戦略の1つになってくるでしょう。それは、入居者がいない状態で売却すれば、自己居住用物件として売却することも可能だからです。
ただし、収益性が高い物件は、収益還元法による査定のほうが高い金額が算出されるケースもあります。
この場合は、自己居住用物件としてではなく、オーナーチェンジや現空の収益物件として販売したほうが高く売れるものと考えられます。
不動産利益が確定するのは、売却後です。
いくら順調に経営できていたとしても、売却損が出てしまった場合にはそれまでの利益を相殺して投資としては失敗に終わってしまう可能性があります。
逆に、売却益がでれば、利益を上乗せできます。
長らくデフレが続いた日本では、インカムゲイン重視の不動産投資が一般的となっています。
しかし、不動産価格はどんどん上がっており、金利上昇、株価高騰が見込まれる今、これまでの利益を損なわないため、そして利益をさらに積み上げるため、インカムゲインだけでなく、ある程度キャピタルゲインを見越した投資が求められるでしょう。
キャピタルゲインを狙った投資のポイントについては、以下の記事をご覧ください。
3.まとめ
今回は、投資用不動産の査定に用いられることの多い収益還元法についてご説明しました。
収益還元法を理解しておくと投資用物件の収益性の見極めがしやすくなり、適切な売却時期や売却方法も見定めやすくなります。
難しそうに思える収益還元法の計算ですが、覚えておくと今後の不動産投資に必ず活用することができるでしょう。