大規模修繕に共済制度が誕生!経費計上のメリット、その他注意点も解説
アパートやマンションは、時間の経過とともに劣化していきます。
建物の劣化を防ぎ、資産価値を維持するためには、定期的に大規模修繕を行わなければなりません。
分譲マンションの場合は、区分所有者で構成する管理組合が長期的な修繕計画を立て、区分所有者全員が修繕の費用を積み立てています。
しかし、賃貸住宅の場合、所有者はオーナーだけであり、高額となる大規模修繕費用を分譲マンションのように分担して負担することはできません。
さらに、賃貸住宅では修繕のために積み立てをしていても、積立金は賃貸経営による収益とみなされて課税対象となっていました。
そのため賃貸住宅では、大規模修繕にかかるコストがオーナーの大きな負担となっていたのです。
このような問題を背景に、2021年に全国賃貸住宅修繕共済協同組合による「賃貸住宅修繕共済制度」がスタートしました。
今回は、賃貸住宅修繕共済制度のメリットやデメリットについてご説明します。
1.大規模修繕工事にかかる工事金額
大規模修繕工事には、高額な費用がかかります。
これまでに大規模修繕工事を実施していないオーナーにとっては、大規模修繕にどの程度の費用が必要になるのか気になるところでしょう。
国土交通省が発表した「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、マンションの大規模修繕工事は、建築から12年~15年周期で行われることが多くなっています。
1回目の大規模修繕工事における1戸あたりの工事金額は、100万円以上125万円以下がもっとも多い額です。
10室あるマンションであれば1,000万円~1,250万円、20室あるマンションであれば2,000万円~2,500万円の費用がかかるという計算になります。
これらの工事費用の捻出は、決して簡単ではないでしょう。
そこで、賃貸オーナーの大規模修繕工事負担軽減のために立ち上げられたのが、賃貸住宅修繕共済制度なのです。
修繕費の目安については、次の記事でご説明しています。
【関連記事】不動産投資で必要となる修繕費の目安とは?
また、外壁工事の修繕費用については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】マンションの外壁工事の費用相場は?改修時期や注意点を解説
2.賃貸住宅の大規模修繕に備える賃貸住宅修繕共済制度とは
賃貸住宅修繕共済制度は、全国賃貸住宅修繕共済協同組合を通じて、修繕費用を共済掛金として積み立て、将来発生する大規模修繕工事に計画的に備えられるようにするものです。
1)賃貸住宅修繕共済制度の概要
賃貸住宅修繕共済制度は、2021年10月に認可された制度で、修繕共済と火災修繕共済が組み合わされた制度です。
この制度は、全国賃貸管理ビジネス協会、日本賃貸住宅管理協会、全国賃貸住宅経営者協会連合会の3団体によって立ち上げられた全国賃貸住宅修繕共済協同組合によって運営されています。
2)加入対象
加入対象となるのは賃貸住宅のオーナーで、個人事業主・法人いずれの名義でも加入できます。
また、加入対象物件は、築50年以内の木造・軽量鉄骨造と、築60年以内のRC造などの賃貸物件です。
3)補償対象となる修繕工事
賃貸住宅修繕共済制度は、2022年6月に制度スタートとなりました。
当初は、補償対象範囲を外壁・屋根・軒裏のみに限定。
しかし、2023年12月からは、廊下や階段、給排水設備、消防設備なども補償対象範囲となりました。
以下は、賃貸住宅修繕共済制度で対象となる共用部分の修繕工事です。
・基礎部分または土台、床組みの修繕
・屋根の塗装・補修
・屋根の防水・葺き替え
・外壁の塗装
・外壁のタイル張り補修
・階段や廊下の鉄部塗装
・階段や廊下の塗装・防水
・給排水管の高圧洗浄
・給排水管の修繕
・立体式駐車場の修繕
・エレベーターの修繕
・ガス設備、電気設備、吸排気設備、消防設備の修繕
賃貸住宅修繕共済制度では、火災や落雷、破裂、爆発によって共済の対象となる建物に損害が生じて修繕を行った場合、1回につき最大30万円の共済金が支払われます。
4)掛金の額と共済期間
賃貸住宅修繕共済制度には「戸数別モデルコース」と「長期修繕計画書作成コース」の2つの加入コースがあります。
戸数別モデルコースは、戸数に合わせて掛金が変わります。
1棟当たり2~6戸の集合住宅の場合、月払いの掛金額は2万円~6万円ほどになります。
長期修繕計画書作成コースは、組合所定の修繕計画書を提出し、予想される修繕費と補償希望額、修繕予定などから掛金を算出します。
共済期間は、いずれも10年以上50年以内で、1年刻みで選択することが可能です。
3.賃貸住宅の大規模修繕共済制度のメリット
賃貸住宅修繕共済制度に加入する場合、次のようなメリットを得られます。
1)共済掛金(修繕積立金)は、必要経費として計上できる
修繕積立金として負担する共済掛金は、必要経費として計上可能です。
これまで修繕積立金を積み立てる場合、オーナーの預金として積み立てるしか方法がありませんでした。
預金は必要経費として認められないため、修繕の積み立てに充てる費用であっても課税の対象となってしまいます。
しかし、共済掛金であれば、必要経費として取り扱えるため、節税にもつながります。
共済掛金(修繕積立金)の経費処理の方法
掛金を経費として処理する方法は、個人事業主と法人で異なります。
白色申告の個人事業主の場合、収支内訳書の「その他の経費」の「損害保険料」として申告。
青色申告の個人事業主の場合、青色決算書の「必要経費」の「損害保険料」として申告します。
また、法人の場合は「保険料」として経費計上しましょう。
2)大規模修繕の計画が立てやすい
賃貸住宅修繕共済の加入にあたっては、長期修繕計画書の提出が必要になります。
大規模修繕の計画をあらかじめ策定しておけば、適切なタイミングで適切な修繕ができるようになるでしょう。
3)建物の維持により安定した賃貸経営を実現できる
外観の劣化した物件は、入居者にマイナスのイメージを与えます。
大規模修繕を行えず建物を適切に維持できなければ、入居者の満足度が低下し、さらに新たな入居者を獲得しにくくなります。
大規模修繕の共済制度に加入し、必要なタイミングで外観の修繕ができれば、入居者の満足度を高め、安定した賃貸経営を維持できるでしょう。
4)建物の資産価値を維持できる
共済加入後は、代理店となる管理会社が年に1回、定期検査を実施します。
万が一、所有するアパートやマンションに不具合が生じていた場合でも、早期に対処することができ、適切な修繕を行うことで建物の資産価値を維持できるようになるのです。
4.賃貸住宅修繕共済のデメリット
賃貸住宅修繕共済制度は、メリットの多い制度ですが、デメリットもあります。
加入に際しては、メリットとデメリットをしっかりと確認しましょう。
賃貸住宅修繕共済制度の主なデメリットをご紹介します。
1)補償対象となるのは修繕工事のみ
補償対象となるのは、代理店による定期点検で劣化していることが確認された箇所の修繕のみです。
グレードアップを目的とした工事は、補償対象とはなりません。
例えば、ウレタン塗装をしていた外壁をより性能の高いフッ素塗料や無機塗料で塗装することは認められないのです。
また、インターホン設備が故障した場合の修繕も補償対象とはなりますが、モニター無しのインターホンをテレビモニター付きのインターホンに交換することも性能向上に該当するため、共済の補償を適用させるのは難しいでしょう。
2)長期修繕計画書作成コースを選択する際には長期修繕計画書の提出が必要
長期修繕計画書作成コースを選ぶ際は、組合所定の長期修繕計画書の提出が必要です。
計画書の作成には工事費用の概算なども必要となるため、業者に見積もり作成を依頼するなどの手間がかかります。
しかし、建物を適正に維持管理するために役立つ書類にもなりますので、デメリットと思わずに業者にも相談しながら作成してみると良いでしょう。
3)期中解約や満期を迎えても掛金の返戻はない
大規模修繕共済制度は、大規模修繕のための共済であり、貯蓄を目的としたものではありません。
大規模修繕の際には費用を補償してもらえますが、契約期間の途中で解約した場合や契約が満期を迎えた場合、共済掛金は返戻されない掛け捨ての共済です。
ただし、掛け捨てであるからこそ掛金を安く抑えられるため、一概にデメリットであるとは言い切れません。
しかしながら、建物がそれほど劣化せず、定期検査で指摘された修繕の範囲が少なく、修繕費がそれほどかからなかった場合でも、未請求分の掛金残高は返金されません。
そのため、共済制度に加入する際には、掛金や加入期間を慎重に検討することが大切です。
4)劣化している箇所は加入前に修繕する必要がある
賃貸オーナーの中には、「そろそろ修繕が必要になるから共済に加入しておこう」と考える人もいるでしょう。
しかし、加入前からすでに修繕が必要な箇所がある場合、修繕を済ませなければ共済に加入できない点に注意が必要です。
5.リフォーム融資の利用も可能
賃貸住宅の大規模修繕費用を手元資金で賄えない場合、賃貸住宅用のリフォームローンを利用するという方法もあります。
さまざまな金融機関が賃貸住宅用のリフォームローンを提供していますが、住宅金融支援機構の場合、住宅セーフティーネットに登録することを条件に低金利で融資を受けることが可能です。
また、居住のために最低限必要と認められた工事や間取り変更、耐震改修工事などについては、補助金を受けられる可能性もあります。
まとめ
賃貸住宅のオーナーにとって、高額な費用が必要となる大規模修繕は頭を悩ませる問題でした。
なぜなら、賃貸住宅の場合、分譲マンションのような修繕積立金の制度がなく、修繕のために費用を預貯金として積み立てていたとしても、その費用は経費として計上できなかったからです。
大規模修繕の共済制度である賃貸住宅修繕共済制度が誕生したことにより、修繕積立金に該当する共済掛金は経費として毎年計上することができるようになりました。
また、共済制度の開始当初は、補償対象が屋根・外壁・軒天の修繕のみに限定されていましたが、2023年12月からは基礎部分や階段、廊下など共用部分全体の修繕工事に拡大されています。
一方、共済制度ではグレードアップにつながる修繕工事ができない点や、長期修繕計画書作成コースを選ぶ際には長期修繕計画書の提出が必要になる点などのデメリットも。
しかし、建物の資産価値を維持し、安定した賃貸経営を実現するためには大規模修繕工事は欠かせません。
修繕共済制度の内容をしっかり確認し、修繕共済制度を大規模修繕対策の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。