いつか来る?マンションの建て替え問題
人口減少が進む中、日本のマンションのストックは年々増えており中でも築年数が30~50年以上経過した高経年マンションのストックが増加しています。
平成31年における国交省の資料によると、築40年超えのマンションは72.9万戸あり、10年後には約2.5倍、20年後には約5倍に急増するとのことです。
そこで本記事では、高経年化したマンションの建て替え問題について解説したいと思います。
1.マンションの建て替えが進んでいない
マンションの建て替え時期を考えるうえでまず知っておくべきなのは、日本においてマンションの建て替えはあまり進んでいないということです。
国交省の資料によると、平成30年4月時点までのマンション建て替え実績は累計でも236件しかありません。これは年平均にすると過去10年で4.5件、770戸と非常に少ないのです。
マンションの建て替えが進まない理由
マンションの建て替えが進んでいない一番の原因、それはいつが建て替え時期なのかの見極めが難しいからだと考えています。
マンションと一言でいっても、SRCもあればRCもあり、また施工した業者によってもマンションの質は大きく異なってくるため、一概に築何年で建て替えという目安を示しにくいのです。
結果として、現状の運用では「使えるまで使い続ける」というレールに乗っている状態のため、老朽化したマンションの建て替えがされずそのまま放置されています。
2.マンション老朽化のチェックポイント
マンションの建て替え時期については、建物個別に判断をしていく必要があります。建て替え時期を見極めるうえで重要な要素は次の2点です。
安全性の判定
老朽化したマンションは安全性に問題が生じてくるため、早めに建て替えに向けて準備を進める必要があります。安全性には、構造上の安全性と防火、避難上の安全性がありそれぞれ次のような項目をチェックすることで判定ができます。
構造上の安全性チェックポイント
- 旧耐震(1981年6月1日以前)の建物である
- ピロティや壁のない独立柱がある
- 外壁や柱、梁などにひびが目立つ
- 外壁や柱、梁のコンクリートが欠けたり剥がれたりしている
- バルコニーの付け根にひび割れがある
- 外壁タイルが浮いたり剥がれたりしている
- 雨漏りや漏水がよく起きる
- エントランスや踊り場などに本来ないはずの勾配が生じている
防火・避難安全性チェックポイント
- 片側住戸で、幅員が共用廊下1200mm未満、共用階段900mm未満である。
- 両側住戸で、幅員が共用廊下1600mm未満、避難用階段1200mm未満である。
- バルコニー側から隣や階下の住戸に容易に避難できない
これらの項目に該当する場合は、建築士やマンション管理士などの専門家に相談して早急に大規模修繕工事や建て替えに向けての検討を始める必要があります。
居住性の判定
マンションの安全性に問題がないとしても、マンションが古くなると徐々に時代に合わなくなってくるので、居住性が損なわれている可能性があります。
以下の項目に複数該当する場合は、建て替えもしくはリフォームなどの対策が必要です。
躯体・断熱仕様のチェックポイント
- 天井の高さに圧迫感を感じる
- 上階のトイレを流す音が聞こえる
- マンション共用部分に段差が多い
- 玄関、浴室、トイレ、廊下等専有部分に段差が多い
- 手すりがない
- 隙間風が入ってくる
- 結露しやすい
設備のチェックポイント
- 水道から赤水が出ることがある
- シャワーの水圧が弱い
- 給排水管がコンクリートに埋設されている
- 排水が詰まりやすい
- ヒューズが飛びやすい
もしも複数項目該当するという場合は、先ほどの安全性も含めて専門家に相談することをお勧めします。
3.マンションの建て替えは計画性が重要
マンションの建て替えには高額な費用が掛かりますので、建物に問題が発覚してから計画したのでは間に合いません。
例えば、分譲マンションを建て替えるとなると、1戸当たり解体費用、建築費用を合計するとおよそ1,800万円かかるといわれているため、何年もかけて建て替えのための準備金を積み立てていく必要があります。
定期的な検査が大切
マンションの寿命は技術が向上していることもあり、年々長くなりつつありますが、どんなマンションもいつかは建て替え時期が来ることになります。
ポイントになるのは、定期的に専門家を交えて建物の定期検査を実施して状態を把握し、必要な時期に大規模修繕工事を確実に実施していくことです。そうすることで、マンションの実際の寿命は大きく変化します。
また、定期検査を実施することで将来どの時期に建て替えが必要になるのかの目途が立てられるので、そこから逆算して建て替え費用を計画的に積み立てていくことも可能です。
十分な費用が積み立てられていない状態でマンションの老朽化を迎えてしまうと、最悪の場合持ち出しで個人負担が発生する可能性もあります。
年をとるのはマンションだけではない
マンションが老朽化するということは、すなわち住んでいる人自身の高齢化も進んでいるということになります。実際、建て替えが必要なマンションにおいて、建て替え費用の持ち出しが高齢者にとって過度な負担になることが問題となるケースも少なくありません。
住宅金融支援機構を利用できれば、高齢者に対しての特例制度として、一時的な資金捻出が難しい高齢者について、毎月の返済を金利部分だけにおさえて元本は死亡時に支払うという制度が利用できますので覚えておきましょう。
4.まとめ
マンションの建て替え問題はその必要性が強く迫られるくらいに老朽化が進んでこないと、なかなか本腰を入れて議題に上らない傾向があります。
特にワンオーナーではなく、複数の区分所有者で構成されている分譲マンションの建て替えについては、管理組合における議論が必要になることから、早い時期から検討していくことが大切です。
今回ご紹介したチェック項目に該当する場合は、一度専門家に建物の定期診断をしてもらうことをおすすめします。