令和における中古住宅流通の活性化~国の中古住宅の取り組みについて~
日本における中古住宅(既存住宅)の流通量は、欧米などの諸外国に比べてかなり低い状況にあります。
少子高齢化や空き家問題などに発するこの現状を危惧した国も、中古住宅の流通促進に力を入れ始めています。
今回は、近年における中古住宅流通の活性化に対する取り組みについて解説します。
1.昨今の「中古住宅(既存住宅)」の現状とは
日本の中古住宅(既存住宅)市場は、2018年の調査(総務省「平成30年住宅・土地統計調査」、国土交通省「住宅着工統計(平成30年計)」)によると全住宅流通量の約14.5%にしか至らず、同じ2018年の欧米諸国に比べてもかなり低い水準にあります。
例えば、アメリカの全住宅流通量における中古住宅(既存住宅)の比率は約81.0%、イギリスは約85.9%、フランスは約69.8%とその差は明らかです。
実際、日本の不動産において大半の流通シェアを占めているのが新築住宅であり、いわゆる「新築信仰」が根強くある理由として、中古住宅(既存住宅)における適正な評価基準が存在しないことや、売る側と買う側で物件の品質に関する情報の非対称性(両者で情報と知識の共有ができていないこと)が生じていることが原因と言われ、その不安心理から消費者は中古住宅(既存住宅)を敬遠し新築住宅に向かう傾向にあるようです。
そのためなのか、日本の中古住宅(既存住宅)市場は「レモン市場(実際に購入してみなければ真の品質を知ることができないとされる市場)」と揶揄されていたほどです。
逆にアメリカでは、中古住宅(既存住宅)を安心して売買できる仕組みが整っており、例えばホームインスペクション(住宅診断)や評価方法などが徹底して整備されているため、市場の流通性が高く維持できていると言われています。
また一方で、少子高齢化や地方の過疎化などが原因で、長い間人が住まなくなった「空き家」が増えている状況が、中古住宅(既存住宅)流通活性化の足かせともなっています。
総務省が2019年4月に発表した5年に1度実施する「平成30年住宅・土地統計調査」によると、国内の住宅総数に占める空き家率は過去最高の13.6%でした。
この数字の中には、長い間買い手や借り手が付かず維持費や税金だけを支払い続ける「負動産」と呼ばれている物件も含まれています。
そして、ここ数年のこのような中古住宅(既存住宅)市場の現状を踏まえ、政府として「空き家」といった住宅ストックの活用や、既存住宅流通の促進・活性化に向けての政策や取り組みが始まりました。
※参考:国土交通省 既存住宅市場の活性化について P.1「 既存住宅流通シェアの国際比較」https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/20200507/pdf/shiryou3.pdf
※参考:総務省 平成30年住宅・土地統計調査 P.2「空き家」https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/g_gaiyou.pdf
2.国の中古住宅(既存住宅)の取り組みについて
高度経済成長期における日本は、産業活性化の目的として新築住宅の流通を推進してまいりましたが、近年は将来的に更なる人口減少が予想されるなか、地域によっては住宅ストック数も世帯数を上回る傾向にあり、国の政策方針も中古住宅(既存住宅)市場の流通活性化や住宅ストックの活用に大きな方針転換を余儀なくされています。
2006年に国は今までの住生活に関わる政策を大きく転換した「住生活基本法」を制定し、その法律に基づき国民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基本的な計画として「住生活基本計画(全国計画)」が策定(2016年3月閣議決定)されました。
この計画には、「いいものを作って、きちんと手入れして、長く使う」といった「新たな住宅循環システム」の仕組みが盛り込まれており、中古住宅流通・リフォーム市場の拡大と環境整備といった目標が掲げられています。
また、消費者が安心して中古住宅の売買ができるように、住宅の品質に対する情報提供を充実させる目的として、専門家によるインスペクション(建物状況調査)の活用を促し普及を図るため「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を2013年6月に策定し、2018年4月1日に施行された改正宅地建物取引業法では、媒介契約締結時・重要事項説明時・売買契約締結時のそれぞれにおいて、インスペクション(建物状況調査)の説明が宅建事業者に義務付けられました。
そして、多くの住宅ストックの活用や住み替え需要を見込んで、建物の不透明な評価基準を払拭するために設けられた認定制度が「安心R住宅」になります。
今回は取り上げていませんが、このほかにも国はこの中古住宅(既存住宅)市場の課題を乗り越えるための枠組みづくりに、多く取り組んでいます。
※参考:国土交通省 改正宅地建物取引業法の施行についてhttps://www.mlit.go.jp/common/001201151.pdf