次世代半導体の開発で日米がタッグ!デジタル産業の実現やいかに
半導体を巡る各国の覇権争いが本格化しています。
米中が半導体戦争を繰り広げる中、米国のIBMと日本の企業連合が次世代半導体製造の新会社を設立。
台湾の半導体大手TSMCもまた熊本に工場建設を進め、日本に製造拠点を構える準備を進めています。
半導体産業で出遅れている日本ですが、政府は半導体製造に膨大な予算を投じて支援する方針を示しました。
果たして、かつて半導体世界シェアトップだった日の丸半導体は復権を得られるのでしょうか?
本記事では、日本で半導体製造を開始する大手企業の動きや、日本の半導体が成功する条件を解説します。
1.半導体世界シェアトップの座から陥落した日本!強まる米中対立で転機到来
半導体を巡る米中の対立が本格化する中、日本の半導体製造技術に世界が注目しています。
かつて日本は半導体で世界シェアトップを誇っていましたが、米国のハイテク産業を脅かすとして、1986年に日米半導体協定が締結。
海外メーカーからの輸入を増やすよう要求を受けた日本は、半導体の世界出荷シェアが50%から10%に衰退しました。
スマートフォンや自動運転技術といったデジタル産業に欠かせない半導体ですが、その製造で各国がしのぎを削る覇権争いに日本は今入っていません。
同分野でつまずいてしまった日本ですが、最近になって米国や台湾の大手企業から半導体製造の開発オファーが舞い込むなど、まさに転機が訪れようとしています。
2.国内企業8社で結成!日の丸半導体の復活をかける新会社『Rapidus』
2022年12月、米国のIBMと日本の企業が協力し、次世代半導体の開発を進めていくことが発表されました。
これを受けて、日本はトヨタやNTTなど国内企業大手8社で結成する新会社『Rapidus(ラピダス)』を設立。
IBMが成功した現時点で最先端と言われる2nm(ナノメートル)半導体の量産化と国産化を視野にプロジェクトを進めます。
ラピダスの用地確保や設備投資には、経済産業省が3,000億円規模の補助金を検討。
日の丸半導体の再起をかけるも2012年に経営破綻した日立製作所や三菱電機らから成るエルピーダメモリの二の舞にならぬよう、国家の威信をかけて半導体製造分野での巻き返しに打って出るわけですが、今日の円安はその追い風になるでしょう。
IBMはこれまで韓国や台湾などに工場を構えてきましたが、今回の日本進出は中国が武力行使に出た場合のリスク分散を狙った先回りとの見方もできます。
米中対立による地政学的な理由で日本に工場を建設する半導体大手の動向が顕著になってきています。
3.半導体世界シェア5割超のTSMC工場建設で熊本に関連企業が続々進出
台湾の半導体大手TSMCもまた熊本県菊陽町で工場を建設。
トヨタの2倍を誇る時価総額と、半導体受託製造で世界シェア5割を超える巨大企業の進出が呼び水となり、熊本県はソニーグループの半導体子会社など関連企業の誘致にも成功しています。
日本が半導体先進国に返り咲く機運が高まる中、雇用人材の教育強化が急がれます。
熊本大学では半導体関連企業による講義を開始。日本がデジタル産業分野で世界をリードするには、半導体製造で単なる労働力にとどまらない、高度な専門技術を持つ人材の創出が喫緊の課題になるでしょう。
勤勉で研究熱心なモノづくり大国と言われた日本は、今まさに復活をかけた正念場を迎えようとしています。
4.日本が半導体競争に勝つ為の絶対条件は「円安」
日の丸半導体の命運は、為替相場に左右されると言っても過言ではありません。
2012年に会社更生法の申請を受けて開催したエルピーダメモリの記者会見にて、同社の社長は、「円高は一企業の努力ではカバーできない」と業績悪化の要因を述べています。
半導体製造のエルピーダメモリと言えば、1999年の設立以降、株式上場や2007年3月期の連結決算では500億円以上の純利益を計上するなど順調に業績を伸ばしていました。
しかし、リーマンショックに端を発した世界経済の不況により半導体の需要が低迷。
追い打ちをかけるように円高が進行し、世界との価格競争で経営は不利な状況に陥ります。
円高進行という企業努力では対処できない外部環境の変化に苦しめられた末、経営破綻となりました。
こうした過去を顧みた上で日本が世界で半導体の世界シェアを拡大するには、価格競争で有利になり、輸出の追い風となる円安相場が絶対条件になると言えます。
5.東京41年ぶりに消費者物価上昇率が4.3%上昇!
2022年は歴史的な円安進行となりました。
2022年1月に年間最高値113円台を付けていたドル円相場は同年10月に151円台まで進行。
足元(2023年2月9日時点)では131円台となっています。
半導体製造や輸出企業にとって追い風になる円安トレンドですが、いつまで継続するのか予想が容易ではないのも事実です。
為替相場は金利と密接な関係があり、諸外国より日本の金利が高ければ円が買われて円高、金利が低ければ円が売られて円安に振れます。
2022年はマイナス金利政策を続ける日本と、国内のインフレを抑えるべく金利の引き上げに踏み切った米国との金利差でドル高・円安が明瞭になった1年でした。
2022年の円安進行を引き継いだ2023年の為替相場ですが、物価高がその潮目を変えようとしています。
総務省は東京都区部の2023年1月の消費者物価指数(変動の大きい生鮮食品を除く)を発表。
41年8か月ぶりの水準となる前年同月比4.3%の上昇となりました。
2022年末には日銀が長期金利の許容変動幅を±0.25から±0.5に拡大し、インフレを鎮静化させる動きも見られましたが、本当に日本はインフレに向かっているのでしょうか。
6.バブル経済の是正による公定歩合の引き上げで低迷期に入った日本
前述した消費者物価指数の上昇率4.3%は、食料とエネルギーを除くと3.0%です。
つまり、昨今の物価上昇はロシアのウクライナ侵攻を起因としたエネルギーや資源の高騰、円安による輸入高によるものであって、国内の消費拡大に伴うものではないとの見方ができます。
さらに、物価変動がどの程度起きたのかを示すGDPデフレータは、2022年7~9月期でマイナス0.3%。
これが1未満であれば物価が下落していることを意味する為、GDPデフレータでは日本がインフレ局面にあるとは言えない結果になります。
このような状況で利上げに踏み切れば、企業や家計は厳しくなり、国内の経済活動が冷え込んでしまいかねません。
実際、1989年12月に日銀総裁に就任した三重野康氏が就任から8カ月間で公定歩合を3度引き上げたことで、日本は長きにわたる経済の低迷期に入りました。
バブル退治で行ったこの金融引き締めですが、当時は地価と株価のみが高騰し、物価に関しては上がっていなかったことから、当社はバブル経済の是正で行った利上げは不要だったと考えます。
今春には日銀新総裁の就任が控えており、政府が元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する方向で進めていると報じられています。
植田氏は、90年代末に日本銀行が導入していたゼロ金利政策を審議員として支えた人物で、金融緩和継続の必要性を示していることから、当面は黒田総裁の政策を引き継ぐ見方が強いでしょう。
7.2兆円規模の政府支援と半導体株の株高に見える日の丸半導体への期待感
最後になりますが、半導体は世界競争が激化しており、各国が巨額の資金を投じて自国生産の拡大を図っている分野です。
日本では、2021年度と2022年度の補正予算で2兆円規模に上る半導体支援の補助を実施。
これによりTSMCの熊本誘致に成功するほか、始動したラピダスでの先端商品開発を支援していきます。
国の手厚い補助を受けながら産業の成長が期待される日本の半導体ですが、日銀新総裁の就任で円安相場が継続されるのか等、復権を望むと余念が尽きません。
そんな中、日経平均では2月初旬に、東京エレクトロンやディスコなど半導体関連株が高値を付け買い優勢に。
しばらく日の目を浴びずにいた日本の半導体への期待感が高まり始めています。