待望の宅建業法改正!契約の電子化が進んで投資が加速化!?【2022年5月施行】
2022年5月18日、遂に宅地建物取引業法(以下、宅建業法)が改正されました。
改正の要点は次の2つ。
①宅地建物取引士(以下、宅建士)の押印廃止
②重要事項説明書など各契約書類の交付不要
煩雑な手続きが廃止されることで、契約の電子化が加速することが期待できます。
投資家や消費者は、わざわざ不動産会社の店舗に足を運ばなくても契約が済んだり、希望物件を早期に押さえることができるなど、その享受は大きいでしょう。
具体的な法改正内容を知って今後の資産運用に役立てましょう。
1.宅建業法とは?法改正の背景も
まずは宅建業法について簡単におさらいです。
1)宅建業法とは
宅建業法とは
①宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、
②その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、
③宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする法律のこと。
宅建業法は、宅建業を営む不動産会社を厳しく規制し、購入者等の利益の保護と宅地建物の流通促進を目的にした法律のことです。
参考:宅地建物取引業法 第一条
2)法改正の背景
法改正が行われた背景には、「デジタル改革関連法」の見直しがあります。
「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」とは
同法は、デジタル社会の形成に関する施策を実施するために必要な整備を行うための法律。
主に押印・書面手続きが必要とされる121の法律が改正の対象となった。
デジタル改革関連法の目的は、国民の利便性の向上及び負担の軽減を図ること。
煩わしい契約書(紙)への押印や交付を電子化することで、これらを解消しようと言うのが政府の狙いです。
宅建業法もそのうちの一つ。
「デジタル社会」の形成による日本経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福に寄与するために制定されたデジタル改革関連法の中で、押印・書面手続きの見直しの一環として宅建業法の改正が行われました。
宅建業法に関する改正・施行日
改正日:2021年5月19日
施行日:2022年5月18日
3)法改正のポイント2つ
その前に今一度、法改正のポイント2つをおさらい。
①宅建士の押印を廃止
∟重要事項説明書への宅建士による押印
∟宅地又は建物の売買・交換・賃貸契約締結後の交付書面への宅建士による押印
②各書面の電磁的交付が可能に
∟媒介契約・代理契約締結時の交付書面
∟レインズ登録時の交付書面
∟重要事項説明書(いわゆる35条書面)
∟売買・交換・賃貸契約締結時の交付書面(いわゆる37条書面)
キーワードは「押印廃止」と「交付書面の電磁化」です。
次章でそれぞれの内容を深堀していきます。
2.宅建業法改正のポイント①「押印の廃止」
本章では、まず宅建士による押印の廃止について解説します。
旧業法では、宅建士による記名・押印が必要でした。
法改正により、宅建士による記名・押印は不要となりました。
宅建士の記名・押印が不要になった書面
・重要事項説明書
・宅地又は建物の売買・交換・賃貸契約締結後の交付書面
注意点
宅建業者が、宅地・建物の売買・交換について媒介契約・代理契約を締結したときに交付する書面については引き続き押印義務があるので注意!(34条の2第1項、34条の3)
1)重要事項説明書とは
宅建業者は、
①対象物件の売買・交換・賃借契約が成立するまでの間に、
②取引に係る重要事項について、取引の相手方等に対して、
③宅地建物取引士から、
④書面を交付して説明する 必要があります。
これを総じて「重要事項説明」と呼んでいます。
重要事項説明義務は、宅建業法35条に定められていることから『35条書面』とも呼ばれています。
宅建士からの説明後、宅建士は35条書面に記名・押印して交付する義務がありましたが、法改正によりこれが廃止されました。
35条に規定されている「重要事項」とは、次のことを指します。
35条に規定されている「重要事項」とは
・対象物件の登記された権利の種類や内容
・法令上の制限に関する事項
・私道負担(建物の貸借は除く)
・飲用水や電気及びガスの整備状況 など
他にも複数の規定があるので、より詳しい内容をご確認したい方は35条をご参照ください。
2)宅地又は建物の売買・交換・賃貸契約締結後の交付書面とは
宅建業者は、
①売買、交換又は貸借の契約が締結されたときは、
②取引の当事者に対し、代金又は借賃の額、
③その支払方法など契約書の内容のうち主要な事項を記載した書面を
④遅滞なく交付しなければならない
と規定されています(37条1項、2項)。
37条に規定されていることから、『37条書面』と呼ばれています。
これも重要事項説明書と同様に、宅建士による押印が必要でしたが、法改正によって押印は不要となりました。
実務上では、この37条書面は売買契約締結時に交付するため、宅建士から対面で手渡しするケースが一般的。
後述しますが、電磁的交付が可能になったので、対面で受け取る必要もなくなりました。
3.宅建業法改正のポイント②「各書面の電磁的交付が可能に」
2013年に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」に基づき、各書面の交付も電子化で行うことが目標化されました。
先に述べた重要事項説明書の交付もその一つ。
2015年から幾度もの社会実験が繰り返された結果、2022年5月、今回の法改正でようやく不動産取引における書面の交付も、電磁化が認められました。
とは言え、まだ全ての書面が電磁的交付の対象になったわけではありません。
次の4つの書面のみ、先駆けて認められました。
電磁的交付が可能になった4つの書面
①媒介契約・代理契約締結時の交付書面
②レインズ登録時の交付書面
③重要事項説明書(いわゆる35条書面)
④売買・交換・賃貸契約締結時の交付書面(いわゆる37条書面)
③と④は、2章「押印の廃止」でも述べた内容と同様なので、説明は省略します。
①と②について、その概要をご説明します。
1)媒介契約・代理契約締結時の交付書面とは
媒介契約・代理契約締結時における宅建業者の規制内容を確認します。
宅建業法では、次のように定めています。
宅建業者は、
①媒介契約や代理契約(以下「媒介・代理契約」)を締結した場合、
②当該契約の依頼者に対し、
③希望する取引価額、報酬など契約書の内容のうち主要な事項を記載し、
④記名・押印した書面(以下「媒介・代理契約書面」)を
⑤遅滞なく交付しなければなりません(34条の2第1項、34条の3)
ポイントは媒介・代理契約の書面は電磁的交付でOKということ。
では、物件を購入するオーナーが宅建業者から電磁的交付を受けても良い「媒介・代理契約」とはどのような契約になるのでしょうか。次の通りです。
電磁的交付を受けても良い媒介・代理契約
①宅建業者が依頼者(オーナー)との間で結ぶ宅地又は建物の
売買又は交換の媒介の契約
②宅建業者に宅地又は建物の売買又は交換の代理を依頼する契約
売買・交換における媒介(代理)契約なら電磁的交付を受けても良いということになります。
逆説的に言えば、賃貸における媒介・代理契約においては宅建業者による電磁的交付の義務はありません。
2)レインズ登録時の交付書面とは
本節では、レインズの法改正についてだけでなく、不動産会社との専任媒介契約時の注意点にも言及します。
レインズとは
「レインズ(REINS)」
「Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)」の略で、
国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステムのこと。
会員となっている不動産会社は、売主や貸主の依頼に基づいてレインズに全国の物件情報を登録できる。
レインズは、不動産業界全体が連携して買いたい人や借りたい人を探せることから、不動産流通のインフラの役割を担っている。
依頼に基づき、宅建業者はレインズに物件情報を登録します。
この際、その不動産会社にしか買主(借主)を探索しない契約(専任媒介契約)を締結した時には、宅建業者は、対象物件のレインズへの登録が義務付けられています。
レインズに登録したことを証する書面も依頼者に交付しなければならず、電磁的交付が可能となりました。
不動産オーナーが自身の物件の客付けを不動産会社に専任媒介で依頼した時には、その不動産会社からレインズ登録を証する書面を電子書面で受け取る事が可能になりました。
専任媒介契約の囲い込みに注意
レインズと専任媒介契約に関して、法改正の点以外で重要なことがあるのでお話ししましょう。
専任媒介契約を結んだのであれば、レインズに登録したかどうかを不動産会社に必ず確認することをお勧めします。
業者による「囲い込み」を防ぐためです。
上述の通り、宅建業者は対象物件のレインズへの登録が義務付けられています。
(専任媒介契約なら契約締結日の翌日から7営業日以内に登録する必要がある)
【下図】媒介契約3種類の違い
一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 | |
複数社との契約 | 〇 | × | × |
売主自らが買い手を見つけた場合 | 〇 | 〇 | × |
契約期間 | 制限なし
※一般的には3ヶ月以内なので準ずることが多い |
3ヶ月以内 | 3ヶ月以内 |
不動産流通機構(レインズ)への登録義務 | 任意 | 契約締結日の翌日から7営業日以内 | 契約締結日の翌日から5営業日以内 |
売主への業務報告の頻度 | 任意 | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
メリット |
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デメリット |
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専属専任媒介契約より報告頻度が低く、不動産流通機構(レインズ)への登録もわずかに遅い |
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適した物件・ケース |
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販売・広告活動に力を入れて貰いたい一方で、自分で買主を見つけられる可能性があるケース | 自分で買主を見つける事がない場合 |
※参照元:不動産会社と結ぶ「媒介契約」の種類を徹底解説。どの媒介契約を選ぶべき?
悪質な不動産会社だと、専任(つまり自社以外の不動産会社に頼めない状態)の立ち位置を利用して、7営業日を過ぎてもあえてレインズに登録しない業者もいます。
レインズに登録してしまうと、他の不動産会社も対象物件の案内が可能になり、結果的に自社で買主を見つけることができず仲介手数料を得ることが難しくなるためです。
これを防ぐべく、あえてレインズに登録せず確実に自社で買主を見つけようとする行為を「囲い込み」と言います。
売主(オーナー)にとっては迷惑な話でしかありません。
囲い込まれることで、売れるものも売れなくなってしまいます。
悪徳業者による「囲い込み」を防ぐために、売主(不動産オーナー)は、不動産会社にレインズに登録したかどうかを必ず確認するようにしましょう。
不動産会社は、レインズに登録したら遅滞なく登録証明書を依頼主に交付する義務があります。
つまり、7営業日後すぐに登録証明書の交付がないとおかしいのです。
まとめ
法改正のまとめ
★改正ポイント★
①宅地建物取引士(以下、宅建士)の押印廃止
②重要事項説明書など各契約書面の交付不要
★法改正でどうなる?★
遠方にいてもスマホひとつで不動産取引が完結する
政府は貯蓄ではなく積極的な資産運用をすべき方針を打ち出しています。
資産運用を考える地方の人でも、利回りの高い都心の収益不動産も投資対象になったと言え、投資物件の取引はさらに加速すると予想されます。
地方にいながらネットで取引が完結する時代が近づいています。
今後、各社でネット取引の体制が敷かれるでしょう。
時流に乗り遅れると優良物件を逃しかねません。
情報のキャッチアップを継続していきましょう。