【2022年更新】民法改正で連帯保証人が無効!知らないとヤバい極度額改正のポイント
これまで120年間ほとんど改正されることがなかった民法がついに2020年、大規模な改正が行われました。
そんな中、賃貸管理の実務においても法改正によってさまざまな影響が出てくることが予想されますが、中でも知らないとヤバいのが「連帯保証人」に関する規定です。
現状の賃貸借契約書をそのまま使っていると、民法改正後はトラブルが無効になる可能性がありますので注意しなければなりません。
本記事では、大家さんや管理会社向けに改正民法が連帯保証人との契約に与える影響と、改正を受けて賃貸借契約書をどのように改定すればよいのかについて解説します。
1.賃貸借契約における連帯保証人と保証人の違い
賃貸借契約においては、保証人も連帯保証人も、「賃借人の債務を保証する人」という点では同様です。
それでは、一体どのような違いがあるのでしょうか。
1)連帯保証人とは契約者と連帯して債務を負担する人
連帯保証人とは
債務者である契約者と連帯し、債務者と同等の義務を負う保証人のこと。
わかりやすく説明すると、借金をした債務者が返済できなくなった場合には、代わりに連帯保証人が返済しなくてはなりません。
例えば、債権者(お金を貸した方)が債務者(お金を借りた方)と連絡が取れないような場合、債権者は連帯保証人に返済を請求することができます。
たとえ、債務者に十分な支払い能力があり、それでも支払いたくないがために逃げ回っているだけだとしても、連帯保証人には支払う義務があります。
何だか理不尽な気がしますが、債務者と連帯し同等の義務を負うとは、このような意味であり、「連帯保証人にだけはなるな」、といわれる所以でしょう。
2)賃貸借契約における保証人と連帯保証人の違い
賃貸借契約における保証人と連帯保証人の違いを、賃借人(債務者)が家賃を滞納しているケースでみていきましょう。
大家から、「賃借人が家賃を50万円滞納したので代わりに支払ってほしい」と言われたとします。
その際、保証人であれば、「まずは自分ではなく滞納している本人に請求してください」と言うことが出来ます。
これを、「催告の抗弁権」といいます。
また、保証人は、賃借人が金銭や車をはじめとした財産を所有していることを知っている場合、「賃借人には財産があるので、そちらから取り立てをしてください」ということも出来ます。
これを、「検索の抗弁権」といいます。
それでも賃借人が滞納した家賃を支払えないという場合に、保証人は賃借人の債務を支払うことになります。
さらに、保証人が2人いた場合、債務額を保証人の人数で割った分のみ支払えばいいので、「25万円だけ支払います」と言うことができます。
これを、「分別の利益」といいます。
一方、連帯保証人には上記のいずれの権利もありません。
ですから、大家から、「賃借人が家賃を50万円滞納したので代わりに支払ってほしい」と言われたら、連帯保証人はその請求に応じて、代わりに50万円全額を支払いしなければならないのです。
連帯保証人が2人いても、分別の利益がない連帯保証人は、50万円全額を支払う義務があります。
よって、保証人よりも連帯保証人の方がはるかに重い責任を負っているといえるでしょう。
3)現在の連帯保証人の責任
今回の民法改正がされる前は、賃貸借契約から生じる一切の債務について連帯保証するという内容の賃貸借契約が主流となっており、連帯保証人は契約者が家賃を滞納し続ける限り、際限なくいくらでも連帯保証しなければならないという状態でした。
ただ、これではあまりにも連帯保証人にかかる負担が大きすぎるということで、以前からさまざまな議論がされていたのです。
そもそもこのように「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証」のことを根保証といい、連帯保証人にかかる負担が大きすぎるということで2004年に改正が入りました。
金銭の貸渡しなどによって負担する債務(貸金等債務)については、保証人が個人である場合に限り「極度額」の定めが必要になり、極度額の定めがなければ根保証契約は無効になるという改正がされたのです。
この時点では賃貸借契約の連帯保証人は貸金等債務に含まれなかったのですが、2020年に施行される民法の大改正によって貸金等債務に限らず個人の根保証契約については、極度額の定めが必要となりました。
よって、賃貸借契約の連帯保証人についても個人根保証契約に含まれることから、民法改正以降は極度額の定めがなければ連帯保証の契約自体が無効になってしまいます。
2.連帯保証人が保証する極度額とは?
根保証契約における極度額とは、連帯保証人が保証しなければならない債務の限度額のことです。
賃貸借契約の連帯保証人でいうと、「立て替えなければならない家賃等の限度額」という意味になります。
例えば、家賃10万円の物件で極度額100万円の連帯保証だったとします。
この場合、連帯保証人は最大で10ヶ月分の滞納家賃を立て替える責任を負い、100万円を超えて家賃滞納をしても、その後の家賃を立て替えて支払う必要はなくなるのです。
1)連帯保証人が保証する極度額に制限はあるのか
現状のところ連帯保証人の極度額に法的な制限は規定されていません。
よって、100万円でも1,000万円でも有効です。
ただ、極度額は連帯保証人と交わす賃貸借契約書や確約書に金額を明記しなければならないので、あまりに高額だと連帯保証人になることを躊躇される可能性があります。
現実的には賃貸借契約は2年契約が多いので、家賃の24ヶ月分に更新料を加えた金額くらいを目安に考えるとよいでしょう。
2)極度額の表記でやりがちなミス
連帯保証人の極度額を設定する際に「家賃の24ヶ月分相当額を極度額とする」というように、家賃の○ヶ月分という表記に契約書や確約書を変更しているケースをよく見かけるのですが、実はこれ無効になる危険性があります。
家賃は必ずしも一定とは限らず、貸主借主の合意があれば変更ができてしまうものなので、「家賃の○ヶ月分」と表記すると極度額が確定していないと見なされて、無効になってしまう可能性があるのです。
つまり、極度額は確定的な金額でなければならないので、家賃10万円の物件で24ヶ月分相当額を極度額としたいのであれば、「240万円を極度額とする」というように、金額で明確に記載するよう徹底しましょう。
3)極度額の設定は賃料の何か月分が妥当か
極度額の目安には所説ありますが、何万円まで、という決まりはないため、公序良俗に則った範囲であれば、自由に定めることができると考えてよいでしょう。
ただし、貸主と借主の合意なく決めることは出来ません。
賃貸借契約において、連帯保証人は、滞納した家賃だけではなく、原状回復義務も賃借人と同等に負います。
ですから、賃借人が部屋の原状回復にかかる費用を支払うことが出来ない場合、連帯保証人が支払うことになるのですが、この原状回復の分まで含めた金額で極度額を設定するか、それともそちらは保証会社などに保証してもらうので必要がないと考えるのかで違ってくるでしょう。
以下、賃料の何か月分が妥当なのか、極度額別に見ていきたいと思います。
賃料の6ヵ月分
家賃の滞納があった際に、連帯保証人の他に家賃債務保証会社の利用も義務付けているなど、迅速な回収が見込めるような場合は、賃料の6ヵ月分の極度額でもよいのかもしれません。
(家賃債務保証会社については後ほど詳しく解説します)
しかし、賃料の6ヵ月分だと、賃借人が退去する際の原状回復費用の不払いがあった場合、まかないきれない可能性が高いです。
そのため、保証の範囲が広い家賃債務保証会社に加入しておくなどの対策が必要となるでしょう。
メリットとしては、賃料の6ヵ月分であれば、そこまで高額になることはないので、連帯保証人になってくれる人が見つかりやすく、入居者も決まりやすいことが挙げられます。
賃料の12ヶ月分
家賃の滞納があった場合、すぐに回収可能なケースも勿論ありますが、何カ月も滞納してしまう賃借人も少なくありません。
大家から賃貸借契約の解除が可能になるのは、3ヶ月以上の滞納があり、一定期間のうちに支払うよう期間を定めても支払いが無い場合です。
この時点で、最低3カ月以上は時間が経過していることになり、この後に契約解除を申し出て、裁判などにまで発展した場合は、1年程度かかってしまうこともあるのです。
そう考えると、極度額を賃料の12ヶ月分とするのは妥当であるといえるかもしれません。
しかし、この場合も、原状回復費用までは、まかなえない可能性があります。
賃料の6ヶ月分のケースと同様、保証の手厚い家賃債務保証会社を選ぶなどの対策が必要でしょう。
賃料の24ヶ月分
上記の賃料の6ヶ月分のケース、12ヶ月分のケースをふまえると、極度額は賃料の24ヶ月分とするのが、もっとも適正であるといえるのではないでしょうか。
滞納分の家賃、明け渡し完了までの損害金額、原状回復費用などを含めると、賃料の24ヶ月分程度に相当するため、大家としてはこの程度はみておきたいところです。
しかし、前述したように、極度額は賃料の〇ヶ月分と表記するのではなく、〇万円と金額で記載する必要があり、賃料の24ヶ月分を金額で提示した場合、高すぎると感じ、連帯保証人になることに対して消極的な姿勢になってしまう方が多いのも事実です。
賃借人が毎月家賃を支払っていれば、連帯保証人は支払う必要のない金額であると納得してもらうことが重要になります。
1,000万円以上
1,000万円以上と聞くと、公序良俗に反する極度額であるように感じるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
そうそうあることではありませんが、建物の構造によっては、賃借人の過失で火災が発生した場合など、火災保険だけではまかなえないケースもあり、1,000万円以上の損失が出ることもありえます。
その際、賃借人には損害賠償を支払う義務もありますので、連帯保証人も同様の義務を負います。
このようなケースを想定するのならば、1,000万円以上の極度額を設定するのも問題はありません。
ただ、やはり1,000万円以上という金額を見たとき、連帯保証人となる方から承諾を得られる可能性は限りなく低いことが予想されます。
3.大家・オーナーとして求められる対策
今回の民法改正で、賃貸借契約書の連帯保証人に関する条文に極度額の記載が必要になるほか、実務的にも大家・オーナーとして考え方を変えていくべきことがいくつかあります。
1)連帯保証人を複数人お願いする
連帯保証人に極度額を設定するということは、万が一極度額を超えてしまうと実質的に連帯保証人がいなくなってしまうことになります。
そのため、今後は連帯保証人を2人立ててもらうなどして、保証される金額の上積みを検討する必要も出てくるでしょう。
極度額は連帯保証人ごとに適用されるので、例えば、XさんとYさんの2人の連帯保証人がいるとして、それぞれ240万円の極度額であればトータルで480万円までは保証を受けられることになります。
ちなみに、極度額は連帯保証人個別にカウントされるので、仮にXさんが10万円立て替えて払えばXさんの極度額が230万円になり、翌月にYさんが10万円立て替えて払えばYさんの極度額が230万円になる点に注意が必要です。
よって、連帯保証人を複数人立てた場合は、誰がいくら立て替えてくれたのか家主として記録をとっておくようにしましょう。
2)家賃債務保証会社を活用する
今回の民法改正で多くの管理会社が「家賃債務保証会社」の利用拡大を進めています。
家賃債務保証会社とは
賃借人が一定の保証委託料を支払うことで、連帯保証人を事業として引き受けてくれる会社のこと
ひと昔前までは外国人の利用者が大半でしたが、最近では連帯保証人がいるケースでも大家・オーナーの希望で保証会社への加入を入居の条件にするケースが増えています。
保証会社にも保証の限度額は設定されていますが、連帯保証人を事業として行なっているため家賃滞納が発生した際の対処が非常に早いです。
>>家賃債務保証会社についてもっと知る
具体的にいうと、概ね3ヶ月分以上家賃が滞納すると建物明け渡し請求の裁判手続きに着手するスピード感なので、極度額をオーバーする前に解決できます。
また、裁判費用や弁護士費用も全て保証会社が負担するため、連帯保証人の場合よりも万が一の際の経済的リスクが大幅に軽減できるのです。
まとめ
2020年4月以降に締結する賃貸借契約から、連帯保証人との間の契約には極度額の設定が必須となります。
また、既存の賃貸借契約の更新だとしても2020年4月以降に更新する契約から、極度額の設定をする必要があるため注意が必要です。
現状のところは、極度額の妥当な金額がはっきりと見えてきていない状況なので、一番安心でリスク回避できるのは保証会社を利用することでしょう。
そうとは言え、やはり自分の身は自分で守るべきです。ひとつの方法として、借地借家法についての理解を深めることが挙げられます。合わせて 忙しいサラリーマン投資家こそ知らないとヤバイ、借地借家法とは? をチェックしてみてください!